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【1巻】『サクラ、サク』を読んだ感想(咲坂伊緒)

久しぶりに少女漫画を読みました​

久しぶりに少女漫画を読みました。

僕が初めて少女漫画に触れたのは、確か小学4年か5年のころで、母方の叔母から毎月「別冊マーガレット」「別冊フレンド」「ベツコミ」の3誌をもらって読み漁っていました。(ありがとう、叔母さん)

未だに強く記憶に残っているのは、『ラブ☆コン』『高校デビュー』『BLACK BIRD』『メンズ校』など。中学生くらいまでは叔母さんがその3誌を贈り続けてくれていたので、当時の少女コミックはかなり詳しいほうだと思います。

とはいえ、自分から少女コミックを買ったことは一度もありません。「あれば読む」程度でした。最近は面白い漫画がたくさんあるので、他の青年漫画・少年漫画を追うだけで精一杯なのです。

―新刊コーナーで見つけた咲坂伊緒の新刊―

しかし先日、ふと新刊コーナーで目に止まった『サクラ、サク』。『ストロボ・エッジ』や『アオハライド』の咲坂伊緒による新作でした。

ちょうど『アオハライド』連載2~3話あたりのタイミングで少女漫画から離脱していましたが、『ストロボ・エッジ』が大好きでした。咲坂伊緒が描くキャラクターは純粋でいて嫌味がなく「王道」中の王道といった感じがかなり強烈に刺さります。(ちなみに、『ストロボ・エッジ』は安藤くんとがっちゃんが好きでした)

なんだか最近、久しぶりに少女漫画を読みたい気分でした。そして久々に読むにはベストな、「好きだった作者」の1巻が出たばかりの新作。こうして僕は、生まれてはじめて自分の手で少女コミックスをレジへ持っていきました。

​咲坂伊緒 節が炸裂

『サクラ、サク』のあらすじ

藤ヶ谷 咲は高校1年生。中学時代に電車で助けてもらった「桜」という人を探し続けている。入学した高校で桜 陽希と出会い、運命を感じたけど…!?

『サクラ、サク』第1巻を先程読み終わりました。一言で感想を言うと「咲坂伊緒節(ブシ)が炸裂している」というものです。(まあ、ストロボ・エッジくらいしかまともに読んだことないのですが……)

・純心・純朴なキャラクター
・ツボをつく「優しさ」
・絶妙な共感性羞恥​

ざっくり言うと、上のような特徴が非常に咲坂伊緒ぽいなと思いました。『サクラ、サク』の感想を、これらの特徴になぞらえて書いていきます。

純心・純朴なキャラクター

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「純心・純朴なキャラクター」はもっとも特徴的ではないでしょうか。

まあ咲坂伊緒に限ったことではなく、とくに『別冊マーガレット』系の王道少女漫画ではヒロインを「汚れなき清純な少女」というフラットな器にすることで、読み手の感情移入をスムーズに促します。

しかし、たいてい別作品だと「ある程度の醜さ」みたいな感情を意図的に入れている気がします。たとえば極端な例ですが、『ヒロイン失格』はまさにこの例に当てはまりますね。

『ヒロイン失格』のヒロイン(ややこしいですが)は、クールな幼馴染に対して恋心を抱いており、「自分こそが彼にとってのヒロインである」と盲信していました。しかしある日突然、パッとしない印象の地味な女の子に、“ヒロイン”の座を奪われてしまうのです。ここからまさに「ヒロイン失格」と言わんばかりに、意地悪な思考を読者にだけ見せながらストーリーが進んでゆきます。

『ヒロイン失格』は、こういった「少女漫画のような恋に恋する読者像」を代弁し、あたらしい共感モデルを作り出した作品だと思います。いわば「リーダー型」とでも言いましょうか、かなりリアルに近い感覚を持ったヒロインの行動・心情にリードされるように、“あるある”とうなずいてしまうような描写が多いと思うのです。

『サクラ、サク』の話に戻りましょう。咲坂伊緒が描くヒロインは、これと対極にあたる、王道すぎる王道ヒロインと言ってよいでしょう。もちろん前述したように、少女漫画では「汚れなき清純な少女」というフラットな器に、自分の視点を当てはめて読めるような構図が理想的です。ヒロインにはある程度の素直な一面があり、そして思わず読者が応援したくなるような努力を積み重ねていきます。

しかし咲坂伊緒が描くヒロインは、むしろ純心すぎる気がします。「フラットすぎる」というか、誰でも抱く“負の感情”みたいなものが、ごっそり排除されています。

いつでも明るくポジティブ、ちょっと恋愛には疎くて鈍感、そして辛いときには大粒の涙を流す……。感情移入という観点では、「いや、そうはならんやろ」と思っても不思議ではありません。

でも、それがいいんですよね……。

おそらくバランス感覚がめちゃくちゃイイんだと思います。絵のタッチ、キャラのルックス、純粋すぎる心情、どれをとっても「キレイな世界」です。しかしだからといって“作り物感”が強いわけでもなく、「現実にこんなことが起きたら自分ならどうするかな~」とリンクさせるような出来事が物語のなかで起こっていきます。

一例を挙げましょう。ヒロインの藤ヶ谷 咲は駅でとある女性の落とし物に気づきます。近くにいた男子高校生はその落とし物を見ていましたが、スルー。「拾ってあげればいいのに」と思いながらも、「いや違う、私が拾って届ければいい」とすぐに行動します。

誰しもこんな場面に遭遇したことがあると思います。そして読者に「自分だったら拾わないかも」とか、「私も今度から行動しよう」とかを考えさせるような描写が散りばめられているのです。

現実には存在しないように思えるほど純粋な子ですが、現実でよく目にするようなケースに遭遇することで、リアルな存在感が出てくる……。そして読者はどんどん、「こんな子と友達になりたいな」と思っていくのではないでしょうか。

このように、読者自身がヒロインの視点になって没入することは難しいキャラクター像ですが、読者が第三者目線でストーリーに没入していきやすい構造・バランス感になっているのだと思うのです。(もちろん、ヒロインと同じくらいピュアな人であれば、ヒロイン視点で没入して楽しむのだとは思いますが)

ツボをつく「優しさ」

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ヒーロー役、つまりヒロインが恋する相手の「優しさ」は、咲坂伊緒作品に欠かせない魅力ですよね。「分かってる~!」とつい思ってしまうような、さりげなくも確かな「優しさ」が乙女心をくすぐります。

何がいちばんツボをつくかというと、優しい行動をしたときに「優しいことをしてあげた」という自覚が皆無なところではないでしょうか。

ひょんなことから、ヒロインの藤ヶ谷 咲は膝にすり傷を負います。本人も気にしていないほどの小さいケガでした。その場に居合わせた桜 陽希は、もうひとりの友人と咲を残して「コンビニでトイレ借りてくる」とその場を離れます。そして別れ際、「ついでに買った」という絆創膏をポイと渡して、真顔のまま「じゃーね」と立ち去るのです。

さも当然のように、そして押しつけがましくないほど自然に、本人も忘れていたようなところに気がつくこの“本当の優しさ”。こんなの、誰だって惚れてしまうじゃないですか……。

なんかこの「本人も優しい行動だと自覚していない」ような行動って、おそらく咲坂伊緒のこだわりか、理想のヒーロー像だと思います。

『ストロボ・エッジ』でも『アオハライド』でも、少しぶっきらぼうで無表情が多いヒーローが、このような自然な優しさを見せるシーンがありましたね。

たとえば『ストロボ・エッジ』のなかでは、満員電車の中でみんな押しつぶされそうになっているなか、ヒロインの仁菜子の周りだけはスペースが空いていました。蓮くんが自分の体で壁をつくり、疑似「壁ドン」のような状態で仁菜子の周りをガードしていたんです。

そんなふうに「あれ?」と見過ごしてしまいそうなほど自然に、しかし確かな「優しさ」を見せるシーンが多い気がします。しかも本人は自覚なし、どちらかといえば「優しくないから」と少し照れるくらいの天然イケメンマインド。

しかも仲良くなったときにヒロインにだけ見せる、ちょっと幼い笑顔、拗ねた顔など……。恋愛を描く少女漫画において、これほど的確にツボを抑えた男性キャラクターが登場する漫画は、そりゃあ人気出ますわ、と思います。

絶妙な共感性羞恥

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これまで咲坂伊緒が描くキャラクターの特徴を挙げてきましたが『サクラ、サク』のヒロイン藤ヶ谷 咲も、例にもれずめちゃくちゃ純粋な“いい子”です。

そもそも今作の場合は、藤ヶ谷 咲が「いい子」になろうと決心するところから物語が始まります。彼女が人助けをすると、周りからも「いい子ぶりっ子」と言われる描写があるほど、『サクラ、サク』の中では重要なキーワードになりそうです。

咲が人助けしているときは、周りを気にせず猪突猛進に行動します。そのため、ちょっと恥ずかしい失敗や勘違いを起こしてしまうこともしばしば。

咲はある日の放課後、桜 陽希がガラの悪い男子高校生に絡まれているのを目撃します。即行動派の咲は、「はなせー!」と叫びながら体当たりし、桜を連れて逃げ出そうとします。しかしそのヤンキー風の学生は、桜の幼馴染でした……。

1巻の後半でも、とある勘違いから咲が落ち込んでしまう出来事がありました。しかしそこに桜がやってきて、優しくフォロー。2人はベンチに腰掛けて何気ない会話になります。

咲「桜はやっぱり優しいよね!」

桜「優しくないし、それってどうでもよくない?」

咲「私にとっては最重要!それに陽希(桜)は優しいから!」

桜「じゃあ藤ヶ谷(咲)は、俺のこと好きになっちゃうかもね」

なんと……、なんと甘酸っぱいシーンなのでしょうか……。もちろん桜に“そういう意図”はなかったのですが。この会話のあと、2人は顔を真っ赤にして、そそくさと帰り支度を始めるのでした。

こんなふうに、こっちまで恥ずかしくなるようなシーンの塩梅が絶妙です。

「共感性羞恥」という言葉がありますが、ほどよい羞恥は少女漫画のスパイスです。なぜなら羞恥心のないラブストーリーにはときめきません。「好きです」「じゃあ付き合いましょう」と共感性羞恥が絶対に起こらない恋愛模様は、なにひとつ面白くないのです。

ただしやっぱり、共感性羞恥を感じる機会が多くても「中2っぽくてサムイかも」とか、「私の年齢だとちょっともう読めないかも……」とか感じてしましょう。大事なのは、丁度いい塩梅です。

『サクラ、サク』の感想まとめ

『サクラ、サク』を読んでみて感じた魅力を紹介しました。

・「友だちになりたい」と思うほど、純粋無垢なキャラクター
・何気なく自然な優しさに、トキメキ
・ちょっと恥ずかしいシーンもアクセント

まあなんというか、やっぱり咲坂伊緒の漫画って面白いな~というのが全体の感想です。

心理描写はもちろん上手いし、純粋なキャラクターだからこそ言えるようなセリフの言葉選びもピカイチ。

久しぶりに少女漫画『サクラ、サク』を追っていきたいと思います。

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