見出し画像

証券アナリストジャーナル読後メモ:資本主義から志本主義へby 名和高司

証券アナリストジャーナルを2010年頃からずっと購読している。今回とりあげる名和高司氏を始め、著名な学者そして経営者の貴重な講演や論文を閲覧できることができ、大変勉強になっている。年会費18,000円は維持コストとして高い、という声も周囲でよく聞くが、月にならせば月額1,500円である。月一回の外食をやめればいい程度のコストで、この水準の論文や講演が読めるのは圧倒的にコストパフォーマンスが良い、と自分は考えている。

今回は表題の「資本主義から志本主義へ」(2022年12月号)で印象に残った箇所を以下にまとめてみた。

特に、「リーンスタートアップは既に死後」「両利きの経営という言葉も米国では既に死後」という言葉には少し驚いた。よくよく読んでみると、その理論自体を根本から否定しているものではないので、引き続き両者の理念自体は有効なのだろうが、詳細は会員になってから読んでいただければと思う。

https://www.saa.or.jp/dc/sale/apps/journal/JournalShowDetail.do?goDownload=&itmNo=39447

<市場の変化について>

  • 各企業は、顧客市場、人財市場、金融市場という三つの市場と対峙しているが、それぞれについて「ライフシフト」「ワークシフト」「マネーシフト」という大きな変革が起きている。

  • 顧客市場におけるライフシフトは、人生100年時代に対応したもので、健康、環境などが一段と重要になる。

  • 人材市場におけるワークシフトは、リンダ・グラットン教授が提唱しているもので、2025年になると、イケてる人たちは定職につかず、フリーランサーになると予測されている。今の若者は、企業に永久就職するつもりはなく、自分が本当に成長できるところに移っていくことが当たり前になりつつある。

<パーパス経営について>

  • パーパス経営をやりきっている企業はコストが下がる。マーケティングコストと、オペレーションコスト、人件費の3つのコストが下がるからである(注:正確には、人件費については下がるのではなく、社員の生産性が上がる、というのが正しい)。

  • 社員のやる気と生産性に関する調査結果をみると、自分の仕事に満足していない社員に比べ、満足している社員の生産性は約1.5倍、自分ごと化している社員の生産性は約2倍、自分の仕事を天職と考え、やる気に満ち溢れた社員の生産性は約3倍となっている。

  • パーパス経営の実現で鍵となるのはミドル層。若手および経営者はパーパス対する関心度が高い一方、ミドルは低い。ここに火をつける必要がある。

<リーン・スタートアップについて>

  • リーンスタートアップは死後である。リーンスタートアップの後はごみの山になるからである。今は、初めからスケールするとの仮説が見出せないものには手を出さない、というディシプリンが米国では確立されている。

  • 日本企業の多くは、事業をゼロから立ち上げて、一を生み出そうとする「ゼロイチ」に熱心に取り組んでいるが、これは間違っている。

  • ゼロイチは多くの場合利益を生まない。したがってあまりここに注力しても意味がない。

  • 新規事業開発が得意なリクルートでは、ゼロイチではなく事業を1から10、10から100に成長させることこそが大事であると考えている。

  • ゼロイチの取り組みばかりしてい日本企業のことを、私はPoC(実証実験のこと)病と呼んでいる。事業の企画が実現できるかどうかの実証実験にひたすら取り組むものの結局事業化できず、ゴミの山が生まれている。

<イノベーションについて>

  • イノベーションは情報の現場からしか起こらず、本社からは絶対に起こらない。ただ、現場から起こるのは芽でしかないので、それをスケールアップさせるには、芽をつなぎ、大きく地殻変動させなければならない。これが本社の役割である。

  • いろいろな現場に埋め込まれているセンサーから上がってきた情報を収集し、その中でイケてる情報を目利きしてつなぎ、新しいイノベーションを起こして拡大させる。

<両利きの経営について>

  • 米国ではこの言葉は死後になっている。

  • ハーバード・ビジネススクールの名誉教授であるジョン・コッター氏は、両利きの経営をこえる概念としてDual OS Organizationを提唱している。

  • これは既存事業の組織のエースを新規事業の組織に送り込み、新規事業の創出に取り組ませた上で、そのノウハウを持って、後日、元の組織に戻すなど、既存事業と新規事業を有機的に結びつける手法である。

  • これにより新規事業をスムーズに進めるとともに、既存事業を進化させることが可能となる。

  • 時間の両利き経営も重要。長期と短期の遠近複眼経営が大事。

  • まず長期経営計画が大事で、こうありたいという世界を夢想、妄想することが必要。

  • また、短期計画も大事で、さまざまな金融経済・世界情勢の動きに絶えず芽を光らせる必要がある。

  • 一番どうでもいいのは中期経営計画。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?