スタートアップから評判の良いベンチャーキャピタルの特徴について、起業家から直接きいてみた
ベンチャーキャピタルといえば、スタートアップの株式を数%〜20%程度を保有し、自身を起業家の「伴走者」と呼びながら成長をサポートするリスクマネーの供給者、というのが通常のイメージだが、一点疑問が生じる。
「マイノリティ株主が、なぜ起業家の伴走者たりえるのか?」「マイノリティ株主ができるバリューアップとは何か?」という点である。
本当に運命共同体になるのであれば例えばバイアウトファンドのようにもう少し出資比率を増やし、経営に積極的に関与すべきである。だが、マイノリティ出資者としてはそこまで大きな影響力をスタートアップに対して行使することはできない。
ベンチャーキャピタルは、マイノリティ出資者という、経営への関与が微妙な立場でありながら、起業家と共に走って一緒に汗をかく「伴走者」としての信頼を勝ち取らなければならない微妙な舵取りが必要な投資家である、と私は理解している。そこで何も投資家としてバリューを出せなければ、ただの金だけを出してExitについてだけ口うるさい投資家で終わってしまうからだ。そしてこうしたうるさいだけの投資家はスタートアップ界隈からの評判を自ら失墜させ自滅し消えていく。
そんな中、スタートアップから評判のよいベンチャーキャピタリストとはどのような方達なのか。なお、ここでいう「評判のよい」とは、スタートアップがそのベンチャーキャピタリストに対し、是非出資をお願いしたい、というポジティブな印象を持っていることを指す。
数少ないサンプル数に基づく話になり恐縮だが、私がスタートアップの方々と話してみた限りだと、おおよそ以下2つのタイプの方々が評判のよいキャピタリストのようである。
1.自分自身がスタートアップ起業の成功経験があること
ベンチャーキャピタリストに転身する以前、自ら起業し成功させた経験のある方々は、スタートアップからの評判がすこぶる良い。
過去、私はとあるベンチャーキャピタルA社のLP出資に関するDDの一環で、A社の投資先のスタートアップの経営者にインタビューをおこなった。その際、「なぜこのA社から出資受けたのですか」と聞いてみた際、「A社の創業者はもともと起業家で大成功された方です。そんな方々からアドバイスを受けることができるだけでとても価値があります」といった答えが返ってきた。
このA社の事例のみならず、だいたい「出資を受けてみたい」とスタートアップから思われるベンチャーキャピタリストは、自ら起業経験のある方たちである。
スタートアップ経営には、数々のHard Thingsに立ち向かう気力・能力・体力が必要とされるが(私はスタートアップの経験がないので偉そうなことは言えないのですが)、そうしたHard Thingsに実際に直面し克服してきた血の通ったアドバイスは非常に価値のあるものとなるようだ。
2.自分自身に事業会社の起業経験はなくとも、キャピタリストとしての成功経験があること
ベンチャーキャピタルに転身する前に事業会社の起業経験がなくとも、キャピタリストとして尊敬を受けている方々も存在する。それは、自身が運営するベンチャーキャピタルの経営に成功している方々である。
こうした方々は、スタートアップから見ても「自分でゼロからベンチャーキャピタルを立ち上げ、数々の投資実績を挙げ事業を拡大し、成功させた」という、経営者としての観点から尊敬の眼差しで見られている。
こちらは上記の1の事例とは異なり、起業家としてではなく、キャピタリストとしてHard Thingsに立ち向かい、成功させたことに対して、起業家たちは尊敬の念を抱いている。
3.最後に;キャピタリストの世界でも「何を言ったかより誰が言ったか」が大事
最近、「高圧的だ」「偉そうだ」「セクハラする奴らの巣窟だ」と、ベンチャーキャピタリストたちに対する風当たりの強さを少し感じてしまうが、そんな中でも、そのお客様であるスタートアップ経営者から尊敬され、「ぜひうちに出資してほしい」と思われるようなキャピタリストというのは、自分自身に起業経験が過去にあり、Hard Thingsを乗り越えた経験がある方々のようだ。
投資家という偉そうな立場にいる以上、偉そうなことをスタートアップに言わなければならない場面は幾度となくあるのがベンチャーキャピタルだろう。そんな中、「お前が言うなよ」と思われるか、「耳の痛い言葉だけれどこの人の言うことならば聞こう」と思われるかどうかの境界線は、自分自身が起業した経験があるかどうか、という点に尽きると思われる。「何を言ったかより誰が言ったか」が大事なのである。