VCが投資先スタートアップのガバナンス強化のため取締役会の議席を求め始めている
https://pitchbook.com/news/articles/VC-investors-startup-board-seats-FTX-OpenAI-governance
2023年11月に起きたOpenAI創業者サム・アルトマン氏の解任騒動や、昨年起きたFTXの破綻劇等の事例も踏まえ、ベンチャーキャピタルが投資先に対して取締役会の議席を求めるケースが増えてきている、との記事があったので共有したい。
OpenAI、FTXのようにスタートアップが投資家に対して強い立場にある場合、ベンチャーキャピタル(リードインベスター以外)は、取締役会の議席も確保はせず、投資先企業の経営には関与しない場合が多い。少数株主の立場としてその超優良スタートアップの成長の恩恵を預かりたい、といういわば「投資はすれども経営には関与せず(アップサイドのおこぼれには預かりたい)」投資家は相応に存在する。
また、パーティラウンドのように10社から20社のベンチャーキャピタルが同時に出資するラウンドを経たスタートアップについては、当然のことながら全投資家が取締役会の議席を持つことは想定しづらい(そもそも数%の出資比率しか持たないベンチャーキャピタルが取締役会の議決権を持つというガバナンス自体も不自然である)。
(パーティラウンドの概要は下記の過去のNoteもご参照お願いします)
だが、最近では「投資はすれども経営には関与せず」というベンチャーキャピタルであっても、取締役議席を求めるケースが多くなっている模様だ。これは前述のOpenAIやFTXにおけるガバナンス不全問題を受け、投資先の内紛・不祥事を適切にモニタリングし、事前に不正行為等を防止する必要性が高まったことが背景にあると考えられる。
ベンチャーキャピタルにとって取締役として経営に関与し、事前に投資先の不穏な動きを察知し、適切な対処策をとることは投資先の経営の健全化のみならず、そのベンチャーキャピタルに対して拠出されたLP投資家の資金の適切な運用の観点からも良いことである。
一方で、取締役として経営に関与する場合、きちんと取締役としての能力がある人かどうかの見極めは当然ながら必要だろう。
取締役を派遣することにより、その取締役に対しては株主代表訴訟を受けるリスクが当然に発生する。仮にお飾り取締役であれば事前に投資先の不祥事の火種にも気付けず、不祥事が発生して株主代表訴訟で損害を請求される、という大きなリスクを背負い込むことになる。
余談であるが、自分のが知る事例ではスタートアップ投資先の業績が悪くなり、会社倒産のシナリオが現実味を帯びてきた途端、株主代表訴訟リスクを恐れてかどうかは定かでないが、取締役派遣を解除するベンチャーキャピタルを複数見たことがある。これはその派遣した取締役個人の訴訟リスクを回避する観点からも適切な対処だったのだろう。
ベンチャーキャピタルとしては投資先の経営を適切に監督できる能力を持つ人を取締役に派遣することが重要だろう。とはいえ、それでも見抜けなかったり想定できないリスクは必ず存在するので、派遣する取締役についてはきちんと役員保険(D&O保険)を入れておくのが適切だろう(D&O保険の例は以下の通り。なお、本記事は特にD&O保険のアフィリエイト記事ではありません)。指名された取締役個人に対する訴訟時の金銭的なリスクは大幅に軽減ができるはずである。