宇宙ビジネス市場の拡大を牽引する要素は何か
2023年8月12日・19日の週刊ダイヤモンド合併号の特集で宇宙産業が取り上げられたり、宇宙関連スタートアップとして日本国内初の上場をとげたiSpaceが、輸送機の月面着陸に挑戦する等、盛り上がりの兆しを見せる宇宙産業。
この宇宙産業の市場規模を計測する際、必ずと言っていいほど参照されるレポートが、モルガン・スタンレー証券が2020年7月24日に出した「Space: Investing in the Final Frontier」である。この原典に立ち返りながら宇宙産業を構成するセクターの内訳や成長ドライバー等を以下、簡単に掘り下げたい。
※尚、前述の週刊ダイヤモンドの記事においては宇宙産業の市場規模は「2040年に世界で2.7兆ドル(約370兆円)に達する」という予測について、米モルガン・スタンレーが出している旨の記述があるが、少なくとも2040年に2.7兆ドルの市場規模を見込むレポートはモルガン・スタンレーでは発していないと思われる。ここではあくまで2020年7月24日付レポート「Space: Investing in the Final Frontier」に基づき説明をしたい。
1.2017年の市場規模は約34兆円(約2,400億米ドル)、2040年には約140兆円(約1兆ドル)まで成長する見通し
この市場規模の事業セグメント毎の内訳と、それぞれのCAGR(年平均成長率)は下記の通りである。市場全体としてみれば年平均成長率は2040年にかけて6.6%の成長(表の右下ご参照)を遂げていくことになる。
市場規模が最も大きいのは日本でいうところのスカパー!のような消費者向けテレビ事業であり、次いで非衛星事業となっている(図表中緑色部分ご参照)。
2.日本の市場規模は2018年で約1.2兆円
政府が2018年に発表した「宇宙産業ビジョン2030」によれば日本の宇宙関連産業の2018年時点での市場規模は約1.2兆円。本ビジョンではこの市場規模を2030年までに約2.3兆円〜2.5兆円に拡大させることを目標として掲げている(以下スクリーンショットご参照)。上記のモルガン・スタンレーのレポートで出てきた2017年の市場規模約34兆円と比較すると、日本の市場シェアは約3%程度ということになる。
3.モルガン・スタンレーのレポートに出てくる「Second Order Impact」とは一体何か
話をモルガン・スタンレーのレポートに戻してみる。ところで、2017年には市場規模がゼロだったのに、2040年には約4,115億米ドル(約58兆円!)になる事業セグメントが存在する。それがSecond Order Impact(日本語に訳すると、副次的効果とでも言えばよいだろうか)である(下表の緑色のセルをご参照)。
このSecond Order Impactとは何か。これに関しては各種専門家と言われる方々やコンサルティング会社の方にもこれまで質問をしてきたことがあるが、どうもあまり明確な答えが返ってこない。そう思っていたところ、本市場予測を行ったモルガン・スタンレー自身がSecond Order Impactについて語った記事があったので、その中で該当する部分を以下引用しておく。
この記載を見てもそれでもあまりパッと理解ができないが、おそらくこれは通信衛星を利用するインターネット会社・通信会社が利用者の拡大や通信衛星機器の低価格化に伴いメリットを受ける金額、ということだと思うが、いずれにしてもこれほどの巨額の市場が生み出される点について、モルガン・スタンレーはどのような算出根拠に基づき、市場規模を予測したのか、は引き続き謎である。保守的に考えれば、このSecond Order Impactの部分は市場規模に含めないべきなのではないか。
4.Second Order Impactを含めない場合の2040年の宇宙産業の市場規模は約6,412億米ドル(約90兆円)
上記3を踏まえ、Second Order Impactを除いた場合の2040年の市場規模は下記の通り。今の為替レートでは100兆円に少しとどかない程度の規模で推移することがわかる。この水準をダウンサイドケースと考えておくべきだろう。
5.まとめ
以上より、宇宙産業の市場規模は主に消費者向けインターネットサービス等、通信分野における需要拡大が成長を牽引し、2040年には約90兆円〜140兆円の産業に成長することが期待される(週刊ダイヤモンドの370兆円市場は強気すぎとの感想)。非常に大雑把な計算になるが、現在の日本のGDPの約15%〜20%くらいの産業に育つということになる。
市場規模も大事だが、なんと言っても夢があって自然と関心が湧いてしまうのが宇宙産業である。今後も動向は追っていきたい。