UPS(米国の運送会社)の管理職12,000人リストラの衝撃
今日、とあるX(旧Twitter)を見て驚いた。米国の大手運送会社であるUPS(United Parcel Service Inc.)が12,000人の管理職をレイオフするとのことだ。
UPSは本社がジョージア州アトランタにあり、2022年の売上高は1,003億米ドル(約14兆円)で、従業員人数50万人超の巨大物流企業である(下記スクリーンショットご参照)。
UPSは日本でいうところの郵便局とヤマト運輸と日通を合わせたようなイメージである。私も米国駐在時代、日本の親族に物を運送する時や、米国内の遠隔地に書類を送る際、頻繁に利用した。
UPSの窓口社員の担当は多くはお世辞にも良いものとはいえず(むしろ最高に悪かった)、不貞腐れた顔をしながらサービス精神のサの字も感じられない横柄な対応で、窓口に来る顧客の配送物を預かり、機械的に処理をしていった。その処理スピードも遅く、常にUPSの店舗の前には長蛇の列ができていた。
率直に言えば、人間の業務がAIに置き換えられるとすれば、まずは受け身の対応しかしないUPSの窓口業務のような仕事だろう、と考えていた。
そんな中、UPSで今回のリストラが発表された。
驚いたのは、管理職が真っ先にリストラの対象とされたことだ。まさか、UPSのあの窓口社員ではなく、その社員たちをマネージする管理職がリストラ対象にされたとは。
管理職と言えば、その名の通り、経営の意向を汲み、自社戦略を理解しながら従業員をコントロールする高度なホワイトカラーの職務である。一般的には高給でありまた高付加価値業務を行う者たちである。
そんな彼らの業務はAIによって置き換えられてしまうらしい。
なぜ、一見低付加価値業務を行う者はリストラの対象から免れ、一見すると高付加価値業務を行う管理者がリストラの対象となってしまったのか。
推測の域を出ないが、UPSで管理職がリストラ対象となった理由を考えてみたい。
1.そもそもUPSの業績が低迷気味でリストラが必要だった
2023年第四半期と2022年第四四半期の主要な損益計算書項目の比較になるが、足元UPSは売上減に加え、人件費及び物流コストの上昇により営業利益率が下降基調にあった(下図ご参照)。
こうした状況を踏まえ、株価は過去1年で見ても下落基調(同じく下のグラフご参照)であり、何らかの利益率改善に向けた対策を講じる必要に迫られていた。
2.実はUPSの管理職業務の大半は低付加価値業務を担っていた
管理職と言えば、業種、企業の規模によっては高付加価値業務を行う社員をイメージしがちだ。従業員をモチベートしながら事業計画の執行を行う者もいれば、予算管理、資金調達を担う等、企業経営のコアとなる部分を任される管理職もいるだろう。
一方で、UPSの場合、営業所の窓口係が顧客から受け取った郵送物や梱包物の宛先が正しいか、ダブルチェックをするだけの役割を担う管理職も存在すると思われる。こうした明確な解の存在する照合業務であれば、AIでも用意に代替は可能だと思われる。
おそらく今回のリストラの対象は、こうしたダブルチェック機能のみを担う管理職がだったのではないか。
3.低付加価値業務なのにUPS管理職は高給取りだった
Glassdoorによれば、UPSのManager職の給与レンジは92千米ドル〜165米ドルである。憶測の域を出ないが、営業所で単に宛先等をチェックするだけの機能を持つ管理職であれば、この水準の給与は割高だったのではないか。
4.窓口業務は顧客との人間同士のコミュニケーションが必須であり、AIの代替は難しかった
窓口では訪問してくる顧客に対して宛名の書き方を伝えたり、郵送物の重さや寸法を測ったり、AIやロボットに代替させるには高度な複合的な動きやコミュニケーションが必要とされる。従ってリストラしにくかったのではないか。
以上、上記1〜4の理由より、最もリストラ対象としやすかったのが管理職層であったと考える。
今回のUPSのリストラの個別事象のみを以て、早急に「これからは一部の経営層と一般社員層に二分化され、中間管理職はAIによって代替されていく」という一般論を導き出すべきではないし、また導き出すための根拠も足りない。
しかしながら、このUPSのリストラの事例から見えてくるのは「単調な低付加価値業務を行っている人員はすぐにAIに代替される。それは管理職か否かを問わず、である」「高給取りなのに低付加価値業務を行う人員はリストラ対象になりやすい」という、記載してみれば当たり前の事実である。
高付加価値業務が担える人材になることは、AIに代替されない人材になるための要素の一つである。
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