2025年は米国を中心に反SDG、反ESGの価値観がこれまで以上に広まる年になる
「2025年はおそらくこうなるだろう」と漠然と思っていたことを、元旦の日経新聞が綺麗にまとめていた。
反SDG、反ESG、反多様性。まず高尚な理念を掲げる前に、自国民の生活をよくせよ。こうした風潮が世界的に広がってきている印象を受けているが、2025年はまさにそれが加速化する年となるだろう。
ここ10年ほどの間、世界はあらゆる多様性を重視してきた。生物・国家・人種・価値観の多様性から働き方の多様性に至るまで、多様性が是とされる世界で生きてきた。
多様性を認めることは、「みんな違ってそれでいい」ということであり、他者との違いにある程度の寛容性を認める考え方である。多様性の尊重こそが世界をより良くする、という考えに基づき、地球環境の保護等に取り組んできた。
この多様性を認めるには、他者の違いに苛立たず理解を示し、その違いを認めるための寛容な心を持つことが前提となる。そしてのこの寛容な心を身につけるために、まず自分自身が寛容になるための心の余裕を身につけていなければならない。
ここ10年ほどは熱しすぎず冷めすぎもしないゴルディロック経済の下、世界中の人々は徐々に経済的に豊かになった。それに伴い心の余裕が生まれ、自分自身の生活だけでなく他者に目を向ける余裕が生まれた。
象徴的だったのは株式市場が絶好調であった2019年から2021年頃にかけて、あの株主利益至上主義国家である米国においても株主第一主義が見直され、短期的な株主利益の追求に対する批判と同時に、ブラックロックのような機関投資家(つまり短期的な株主を享受する側)がステークホルダーの利益を重視するよう働きかける動きが見られた。そしてその動きは、株主の利益かステークホルダーの利益か、という二項対立を止揚し、二つを両立するESG投資、という形でステークホルダー主義を促進した。さまざまなステークホルダーの利益を重視することこそが株主の長期的な利益にも貢献する、という考えの下、ESG投資は急速に普及した。
2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻と、それに伴い西側諸国が発動した経済制裁は西側諸国にとって諸刃の剣となった。比較的安価であったロシア産の天然ガスや原油の大半を禁輸とする措置をとった欧州諸国のエネルギー価格は高騰した。これにより欧州諸国市民の生活費も上昇しインフレを引き起こしたが、それでも「侵略者ロシアの横暴を許さない」との正義の下、日々の生活コストの高騰を耐え忍び、太陽光・風力を始めとするクリーンエネルギーに電源をシフトすべく努力を続けてきた。一方LNGガス等の自前のエネルギー源を持つ米国はロシア産資源の禁輸の影響を直接受けることはなかったものの、世界的な資源価格の高騰は米国にも波及し、そして米国民の生活費は高騰した。
こうして、自分自身の生活が苦しくなってくると、他人のことをかまう余裕はなくなってくる。地球環境保護を訴える前に、移民に職を与える前に、まず自国民の生活を訴えるようになる。ドイツのショルツ政権への不満や英国における移民排斥運動もこうしたこうした流れから生まれたものと考えられる。
米国においても今や多様性を認める価値観はほぼ消え去った。ESG投資は結局「ステークホルダー重視の姿勢が株主利益に反している」と批判されて以降急速に萎んでいった。インフレによる生活費高騰に悩まされる米国民は妊娠中絶を認めるか否か、といった「高尚な」理念を掲げる民主党政権よりも、自国第一主義を掲げて自分たちの生活を守ってくれそうなトランプ氏が率いる共和党政権による舵取りを選んだ。
他者に寛容であるためには、まず第一に自分自身の中に他者を慮る程の心の余裕が必要だ。他国のことを気にかける前に、まず自国のことを気にかけることが必要である。
2025年は各国で自国第一主義が急速に進むだろう。重要なことはそれが各国経済にとって良い方向に進むのかどうか、である。
特に米国ではトランプ政権の下、特に中国からの輸入品に対する極端な関税をかける見込みだが、これは結局米国内のインフレを招きかねない。インフレ抑制法はトランプ政権によって廃止される見通しであり、これに伴い一時的に風力・太陽光等のクリーンエネルギー関連投資は縮小する一方、トランプ氏の支持基盤であるテキサス州に多数の事業者が存在する石油・天然ガス関連の投資は復活する可能性がある。こうした動きは石油や天然ガス産出の増加につながり資源価格を抑制し、ひいてはガソリン価格等の低下を通じてインフレを抑制させる可能性もある。
自国第一主義の下でとられる政策がどのような帰結となるか、は2025年を振り返らなければわからない。だが、2025年はここ数年、世界各国で溜まってきたマグマが噴き出し、また新たな方向性に世界が向かう気がしており、勝手に興奮をしている年初である。