『薔薇の血を流して』 読了
最も愛する小説家は誰か? と聞かれると、つい「どのジャンル?」「どの時代?」「年代は?」「性別は?」「国籍は?」と、アキネーターみたいな質問返しをしてしまう。
小説とひとくちに言ってもジャンルは多岐にわたる。そして時代も、国籍も、この人類の長い歴史の中に生まれた小説は数えきれないほどであり、まったく同じ土台で勝負している小説家は皆無だろう。
逃げるような解答になってしまうのを避けるため、わたしはこの質問をされるとアキネーターにならざるを得ないのだ。
しかし文学に明るい人ばかりがこの質問を投げてくるわけもない(むしろ文学好きはこういう質問をしない傾向があるように思う)ので、あまり詳しくない人には皆川博子を激推ししている。なぜならわたしは読書活動を始めて以来、初の「発表された順に全部読むチャレンジ」を皆川先生に捧げているくらいで、“最も愛する”の称号に相応しい方だからだ。
このチャレンジは相当ハードルが高い。なにせ皆川先生は作家活動を50年近く続けておられるので、絶版売り切れ未収録がザラにあるのだ。著作リストは数年前に発刊された『辺境薔薇館』という皆川博子のムック本みたいな素晴らしい本に、日下三蔵氏がまとめてくれている。『辺境薔薇館』が発売されてからも何本か発表していらっしゃるので最新が網羅できていないが、わたしが興味あるのは最初期の作品である故に、そこまで気にしていない。皆川先生ももう90歳くらいでいらっしゃるはずなのだが、未だ精力的に執筆をされている。昨年の5月の東京文フリに皆川先生のブースあったしな(先生はご不在)。
こういう萌え語りを始めると、最初の質問を投げつけた当人はどうでもよくなってしまい、知らない人のプレゼンをされていることに嫌気すら差し、手前の無知であるのに「コアな作家推しでマニアぶってんの? ウケる」みたいな逆ギレをかましてくるので、結論この質問はほとんどわたしにとって地雷センサーになってしまっている。
実際、中学生のときに『倒立する塔の殺人』に出会って衝撃のあまり誰かに話したくて仕方がなかったのに、周りの人が誰も皆川先生を知らないので、わたしはもしかすると文学的異端者なのでは……? と怖くなったこともあるのだが、日下三蔵氏や東雅夫氏のような高名なアンソロジスト諸氏が愛読していると言っているので、いまは皆川先生を愛している自分の読書センスをあまり疑うことがなくなった。
さて、タイトルだが、『薔薇の血を流して』は70年代後半に出版された短編集である。3作収録されており、舞台はいずれもアイルランド付近、3作目はパリと日本だったな。主人公は全員日本人。ジャンルとしては現代サスペンスミステリといったところだろうか。
特に表題作は、勝手に“単車もの”と称しているのだが、バイクやサイドカーの殺人レースに身を投じていく青少年の話である。大人しそうな著者近影からは想像もできない、低く重厚な750ccの排気音が物語に漂う“単車もの”の数々は、いずれも人間の残虐さを掻き立てる。“単車もの”では『ライダーは闇に消えた』がお気に入り。メッサーシュミットが出てくる渋さも込みで大好き。
皆川サスペンスをここまで読んできて思ったのは、要素のひとつひとつにはまったく毒々しさはないのに、組み合わせると特異的な劇薬に変化してしまう毒薬の風情を感じる。毒々しさがないどころか、むしろ美しいばかりだったりするのに、血生臭く、胸のあたりに嫌な重さがのしかかる香りを振りまいている。
読み手をイヤな気持ちにさせるのは簡単かもしれない。ただ不快にするだけなら。だが、ちゃんと文学作品として楽しめるのに、なにか居心地が悪くなる読後感はそう得られるものではない。だからこそ、この人は最初期から完成された作家だったのだなと思わざるを得ない。
これが、だんだんヨーロッパ時代小説に方向転換し、『開かせていただき光栄です』をはじめとする“エドワード・ターナー3部作”や『海賊女王』『聖餐城』『伯林蝋人形館』などの豪奢な耽美幻想文学として昇華されるのかと思うとゾクゾクする。犯罪的な香りが皆川博子の小説の香りなのだ。
はい。萌え語りは終わりです。
……あのさ、なんでアニメやマンガのコアな萌え語りは許容されるのにさ、文学とか化学とか生物、数学、言語……etc の萌え語りは気持ち悪いと思われるんだい?? 本質は同じじゃんね??
自分の小説の宣伝も申し訳程度にします。皆川作品のこと語ったあとでめちゃくちゃかすんでしまうのはわかっているけれど習慣なので、すみません……
藻塩草
ちあきなおみの「喝采」を感じる出来映え。
Buried Doll
学生時代に書いた記憶。あおくさいね。
血染めの雨傘
これはたしか下の句がお題としてついったで流れてきたので便乗したような……うろ覚え
はい、というわけで今日は読書感想文にほとんど費やしたnoteでした。気になったら是非読んでね、皆川博子!!!
ではでは🐤
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