数に強くなる本「幻の序章」
本記事は、5/24に発売になります新刊『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業』(PHP研究所)で、都合によりカットになった幻の(?)序章の冒頭部分です。
このままお蔵入りしてしまうのももったいないので、編集者さんの許可を得て、ここに公開します。本が発売になりましたら、リライトされた序章と比べていただくのも一興かもしれません(^_-)-☆
序章:数字に強いとはどういうことか?
本書を手に取って下さったあなたはきっと少なからず「自分は数字に弱い」と思われていることと思います。ではあなたはなぜ「数字に弱い」と感じているのでしょうか? 計算が苦手だからでしょうか? 学生時代に数学が苦手だったからでしょうか?
しかし、仕事や生活の上で数字に強くなるためには、高い計算力は必要ありません。また、数学ができるかどうかも関係ありません。数字に対するコンプレックスや拒否反応(いわゆる数字アレルギー)をどう克服していったらいいかは、本書の中でおいおい明らかにしていきますが、最初に私の考える「数字に強い人」の条件を上げておきたいと思います。それは次の3つです。
(1) 数字を比べることができる
(2) 数字を作ることができる
(3) 数字の意味を知っている
(1)数字を比べることができる
先日、古い友人と喫茶店でお茶をしました。会うのは数年ぶり。積もる話に花が咲きます。話に夢中になっているうちに小腹が空いたのでピザでも頼もうかということになりました。改めてメニューを見ると、その店のピザにはMサイズとLサイズがあり、それぞれの直径とカロリーも載っています。
ピザ(Mサイズ:直径21 cm)… 992 kcal
ピザ(Lサイズ:直径27 cm)… 1607 kcal
しばらくメニューを見ていた友人は怪訝そうな顔で口を開きました。
「なあ、これちょっとおかしくない?」
「なんで?」
「だってさ、直径は21センチと27センチでそんなに変わらないのにカロリーの方は随分違うじゃん。これってLの方が、トッピングが豪華だったりするのかな?」
「いや、そんなことないと思うよ。まず、カロリーは重さで決まるはずだから、ピザの密度が均一だとしたら体積に比例するはずだし、MサイズもLサイズも厚さが変わらないのなら、カロリーは面積に比例するよね。」
「面積? ってことは、半径✕半径✕3・14だから…
Mの方は、10・5✕10・5✕3・14か…計算が面倒だね。」
と言いながらスマートフォンを取り出す友人。
「これ、逆にLの方がカロリーはやや少なめだね。」
と私。
「えっ? もう計算したの? どんだけ凄い暗算能力なんだよ!」
「いや、ちゃんとは計算してないよ。面積に比例するってことは、円の場合は半径の2乗に比例するってことだけど、半径の2乗に比例するなら直径の2乗にも比例するからね。今、直径の比は21:27だから7:9でしょ? 直径の2乗の比は49:81だね。まあ、だいたい5:8だよ。」
「うん…」
「で、カロリーの方は992:1607だけれど、1000と1600だと思えば、やっぱり5:8で同じ。でも、実際は1000より少なめと1600より多めだから、Lの方が面積あたりのカロリーは低いよ」
「へ~~~。」
とまあ、こんな会話でした。
彼の名誉のために言っておきますが、彼は決して学力が低いわけではありません。それどころか学生時代は学年で1位、2位を争う秀才でした。そんな頭脳明晰な彼は文系に進み現在は誰もが知っている一流企業でバリバリ仕事をしています。ただ、彼は仕事上、数字を扱うことは少ないようです。
言わずもがなですが、数字は非常に強い説得力を持っています。だからこそ私の友人もメニューにあるピザの直径やカロリーを表す数字にやや過敏に反応してしまったのでしょう。ではなぜ数字には強いメッセージ力があるのでしょうか? それは、数字を使えば厳密に比べることができるからです。たとえば、自宅の床面積、道を走る車の速さ、体重…等々、雰囲気や印象ではほとんど違いがわからない場合でも数字はその僅かな違いを教えてくれます。
ただし、先のピザの例からもわかるように数字は闇雲に比べればいいというわけではありません。どの数字とどの数字を比べるべきかを見抜くことが重要なのです。
また、ケース・バイ・ケースではありますが、数字を比べると言っても端数はあまり意味を持たないことがあります。そういうときはだいたいの数で概算できるというスキルも重要です。これができれば、わざわざスマートフォンの計算アプリを立ち上げる必要はありません。
数字に強い人の第一条件である「数字を比べることができる」というのは、自分が欲する情報のための数字を適切に選びだし、適度な精度で比べることができる、ということです。
(2) 数字を作ることができる
外食に行くとき、4人家族のそれぞれに希望を聞くときのことを想像してください。多数決で決めたいとは思うのですが、ただ聞くだけでは4人がそれぞれ、ファミレス、ラーメン、回転寿司、蕎麦屋のように別々の候補を挙げる可能性があり、そうなると決めることができません。またここまでバラバラにはならなくても2票ずつに分かれてしまうこともあるでしょう。
そこで、我が家ではいつも行きたい順に1位~3位までを挙げてもらい、1位には3点、2位には2点、3位には1点を付与して集計するようにしています。そうすれば、「同点首位」が複数になるケースはほとんどありませんし、順位によって得票点数を変えているせいで家族の誰かが熱烈に行きたいと思っているところに決まる可能性は高くなります。
大した工夫ではありませんが、「数字を作る」とは要するにこういうことです。他にも、アルバイトを雇うとき、経験者が1人で行うには100日かかる仕事があるならば、経験者には1、未経験者には(たとえば)0・8を付与して数値化すれば、納期に合わせて雇う人数や日数を算出することもできます。
それから、隠れている数字をあぶり出すことも「数字を作る」ことのひとつです。たとえば、今あなたが手に取って下さっている本書についても、価格、発行日、発行部数、総ページ数、単語数、文字数、縦・横・厚さなどの寸法、重量、通販サイトでの順位、レビューの数、同ジャンルの書籍の売上等々の数字を引き出すことができますね。
つまり、「数字を作ることができる」というのは、気持ちの強さとか仕事の熟練度などの質的パラメータも数値化して量的パラメータにすることができる上に、対象がもともと持っている数字を漏らさず見つけられる能力です。
このようにすれば、世の中のありとあらゆることは数値化できるといっても過言ではありません(そうすることの是非はまた別の問題です)。
……続き(とリライトされた序章)は本書でお楽しみください。
「はじめに」先行無料公開中
また、序章の前の「はじめに」はnoteで先行無料公開中です。ご興味のある方は是非ご覧ください。
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