018生まれる前の世界
好きな本は?というのはオーソドックスな質問だけれども、好きなエッセイは?ときかれることは、あまりない。
だからこれまでずっと胸にしまっていたのだけれど、わたしの1番好きなエッセイのひとつは、リリー・フランキー「美女と野球」なのです。
たぶん、もう絶版なんじゃなかろうか。わたしが見つけたのも確か古本屋だった。
1990年代前半に雑誌『クロスビート』に掲載されたエッセイたちが収められている。本当にくだらなくて面白い内容が9割なのだけれど、残りの1割の鋭さも目を見張る。著者は世界に対して、そして自分自身に対しての目線が本当にきびしい人なのだと思う。そしてそのきびしさが、不思議と心地よいのだ。
まあ内容についてはさておき、この本が特別なのはそれが書かれた時期によるところが大きい。わたしは94年生まれ、つまりこの本のいくつかの話が世に出たとき、わたしはまだ生まれていない。
リリー・フランキーが鴨川シーワールドで営業しているときも、所得番付を新聞で見ているときも、わたしはまだいないのだ。(ちなみにその年の所得番付で作家の1位は赤川次郎だったらしい。時代を感じる。)
なんだか不思議な感じがする。自分がいない世界というのは、もっとも遠くて現実味がないが、実はほんのすぐそばにあるのだ。