復活の記念祭
去る10月29日土曜、首都圏某所にて在日インド人仏教徒の非営利団体:B.A.I.A.E.(アンベードカル博士国際教育協会)主催による『66th DHAMMA CHAKRA PARIVARTAN(第66回 改宗記念祭)』が開かれました。
今を去る1956年10月、インド中南部ナーグプールで行なわれたヒンドゥー教から仏教への集団大改宗以来、世界中でずっと続けられてきた〝解放と自尊の記念祭〟ですが、この2年間はコロナ禍の自粛を受け、オンライン開催を主として来ました。
日本で暮らす改宗仏教徒たちも当時いち早くこのシステムを導入し、直接参加を配信スタッフのみに限定して、法灯護持に精進して参りました。
そして今年、4月のインド大使館公式行事『アンベードカル博士生誕祭』に続くかたちで、ついにこの日本でも『改宗記念祭』が復活したのです。
今回、総合司会を務めたのは小学生男子コンビ。メガネの子が日本語で、相方が英語で、見事に大役を果たしてくれました。
中堅メンバーによる仏教讃歌の奉唱。ところで、近年日本でもインド映画の人気によって漸く認識され始めましたが、インド人は〝歌って踊って感情を表現する文化〟なのです。このことは日本人が古くから親しんだ漢訳の仏教経典にも「偈頌(げじゅ╱SONG)」や「歓喜踊躍(かんぎゆやく╱DANCE)」と明記されているのです。
続いて、少女たちによる「踊躍」の披露。古典舞踊をアレンジした子もいれば、キレッキレのボリウッド・ダンスで会場を沸かせた子、ほっこりしたお遊戯で和ませてくれた子…。みんな元気一杯でした。
インドからZOOMで参加してくださったのは、アンベードカル博士の曾孫で社会活動家のラージ・ラトナ・アンベードカル氏。佐々井秀嶺上人のもとで得度した僧侶でもある氏は、今年ニューデリーで数千の仏教改宗者を世に送り出しました。
またこの日、特別ゲスト講師として登壇してくださったのは、来日中の合衆国ミシガン大学准教授:ジョン・ケウン先生。英語にマラーティー語を交えながら、仏教の未来と社会活動の関わりについて講演されました。
式典のクライマックスは、在日インド仏教徒の奥様方三人による創作舞踊。テーマは「प्रज्ञा(慧)・शील(戒)・करुणा(悲)」。
中国や日本に伝わった仏教では「戒定慧」の三学…戒律を守って瞑想を保持し悟りの智慧を育む…を説きますが、13世紀初頭にイスラム勢力の侵攻を受けヒンドゥー教に吸収されてしまった歴史を持つ現代インドの仏教では、「まず知性を身につけ(慧)、人道をわきまえ(戒)、隣人愛を実践せよ(悲)」。これを三大徳目に掲げます。
──最後に。
およそ2年ぶりの再会を喜び合うインド仏教徒たちを見ながら、私は、個人的な感傷に浸っていました。
私がインドと関わるようになった動機は、単純素朴なものです。
1992年に初めてインドを訪れたのも「お釈迦様の国に行ってみたい」、ただそれだけでした。この時、現地でのコミュニケーションが英語の通じる就学経験者に限られたことで「お釈迦様の国の人々と普通の会話がしたい」と、ヒンディー語を覚えました。
インド庶民にとっては〝神秘と瞑想〟より映画が心の支えであること、お釈迦様の国では仏教が〝むかし滅びた異端〟であること、その仏教が被差別階層出身のアンベードカル博士によって再起動したこと、そして仏教復興運動の指導者が元日本人の佐々井秀嶺上人であること…等、すべてが私の動機に更なる火を点け、今日に到っています。
或る日本のお坊さんは言いました。
「インドもいいけどねえ、宗派のなかで上手くやっていくのには、ほとんどメリットないでしょ」
私の単純素朴な動機は、間違っていなかった。と思っています。