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てのひらの打ち明け話:乾佐伎句集『シーラカンスの砂時計』
「吟遊」同人・乾佐伎さんの第二句集。
絶滅したと考えられていた古代魚・シーラカンス。
実際には現生種が発見され「生きている化石」と呼ばれている。
人間には想像もつかない長い時間を紡ぎ生き残ったシーラカンスの歴史。
その砂時計の尺度は、人間のそれとは違う重みと刻み方をしているのではないか。
そのシーラカンスの歴史からみれば、わずかなヒトの歴史。
そして、個人の歴史。
それは、まるでてのひらほどの広さに過ぎないのかもしれない。
けれど、確かに私は今、ここにいる。
その個人・乾佐伎の歴史をシーラカンスや世界(宇宙)の歴史とあるときはクロスさせ、あるときは並行に想いを寄せて描いた大事な「打ち明け話」のような一冊が本句集なのではないか、と思う。
全8章立ての作品群。感銘句を1章・2句ずつ引く。
シーラカンス象形文字に紛れ込む
本当はわがままなだけ薔薇が咲く
ラガーマン互いの空を奪い合う
葉を重ね合わせてレタスは夢守る
勇気 望遠鏡で探す
満月 傷跡もいっしょに輝く
冬館星が訪ねてきても留守
雪片のひとつはわたしパリに降る
木下闇ゴッホの闇とすれ違う
みんななどどこにもいない花菜畑
空飛ぶ絨毯飼い慣らされて遊園地
空飛ぶ絨毯逆風とよき友になる
夕焼けはシーラカンスの忘れ物
小鳥来る未完で終わる毎日に
永遠はどこかにあって風が住む
まず今日を愛せるようにミモザ咲く
句集には有季の俳句もあれば、無季の俳句もある。
注意深く選ばれ組み合わされた言葉たちによる繋がりはシームレスで自然。
無季の句が有季の句の中にあるときは混じり、またあるときは並ぶことで互いに繊細な世界が壊れないように絶妙なバランスで支え合っている。
波の音ピカソの中へまた消える
また、下記のような一字空白を伴った破調の句も魅力的だ。
空白は読者の深層の記憶を引き出す鍵のようで、効果的な役割を果たしている。
回転木馬 はぐれないように光る
耳元に夕焼け飾る 魔女
章の特徴としては「鏡」では鏡とその言葉をモチーフに連作を構成し、「空飛ぶ絨毯」ではすべて章タイトルの言葉を使用した俳句で構成している。
これらの章は音楽で譬えるとライブの中に設けられるインターバルのようでもあり、次の章へしっかりバトンを渡すための効果をもっていると感じた。
いずれの章でも難しい挑戦をみごとにやり遂げており、素晴らしいと思う。
(私もやってみたい手法と常々思っているので、いずれ取り組んでみたい)
わたしはパレット海にも空にもなれる
本句集を読んで、(お会いしたことが無いが)私の脳裏に浮かぶ作者に一番近い句は上記だ。
何にでもなれる、その自由を維持し続けることはとても難しいことだが、表現の世界の中ではいつもそうあってほしいと思う。
ご恵贈、ありがとうございました
(大変遅くなりすみません)。
ますますのご健吟をお祈りいたします。
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