私をたどる物語 / 熊木杏里
2000年以降に現れた「フォーク・シンガー」です。完全に時代錯誤のアーチスト。「フォーク」は70年代に終わりました。2000年代に入って、この音楽を新曲として届けられた時、ショックを受けました。
以来ファンになって、彼女の曲を聴き続けてます。母親がフォークが好きで家で子供の頃に聴いていて、好きになったという風に聞いてます。
でもこの若さで70年代のフォーク・ソングのスタイルで新曲を作るって事が奇跡です。歌われてる内容は日常のありふれた事。でも若い彼女にとっては傷ついて辛かった事なんかをわかりやすい言葉で切々と噛み締めて歌います。
恥ずかしいとか、そんな事はおくびにも出さず、自分が感じた世界観を切々と歌う姿は美しいです。メロディーと歌詞のマッチング。聴くものにノスタルジーと郷愁を呼び起こす、言葉と歌声。彼女が伝えるその世界観が映画を見てるように、聴くもの脳裏にそれぞれの映像が浮かんでくるから不思議です。
人の心に届く音楽というのはテクニカルな部分を見せる事ではなく、作り手が感じた世界観をどういう手法を使って、リスナーに届けるのが最適なのか。おそらく彼女はそんな事は考えてませんが、結果、それがアーチスト「熊木杏里」というものを形作ってるんだと思います。
彼女の名曲は数知れず。アルバムは7、8枚は出てます。配信でも聞けます。そんな、沢山の名曲の中から選ぶのは大変難しいのですが・・最近、私の心に響いたものを二つだけ紹介します。
私をたどる物語
この曲はTBSテレビ「3年B組金八先生part7」の劇中挿入歌として使われた曲です。武田鉄矢はもともとはフォーク・グループ「海援隊」のリーダです。熊木杏里の出現にはたいそう驚いたと思うと同時に、現代のフォークシンガーとして彼女をリスペクトしてると思います。
そんな気持ちが現れて、この曲では作詞を武田鉄矢が手がけ、曲は熊木杏里が書いた、コラボ曲です。その二人がステージでジョイントするという名場面なので、取り上げました。
本来この曲は番組の挿入歌として武田鉄矢が歌う予定で彼女に作曲のオフォーをし、そのデモ・テープを聞いたスタッフ含め「彼女の声でやったら良いんじゃないですか?」っという事で彼女が歌う事になった曲です。
武田鉄矢は自分が書いた詩の世界を熊木杏里によって、形になり、同じステージでその曲を演奏する訳で、画面の表情からもそん思い入れが伝わって来ます。熊木杏里を冷静に見ると「変な子」に見えてしまいますが、彼女の持ってる世界観が大事な事なので、それ以外は「若い娘」が頑張ってるんだと暖かく見守ってあげてください。
君の名前
もう一曲だけ。この曲は2009年の曲。彼女もアーチストとして円熟の域に入って来ます。フォークというスタイルからもう少しだけ、進んで曲調は現代よりになって来ます。でも彼女独特の声で表現する世界観は変わってません。曲はすっかり東京を感じるような円熟の女性としての成長を感じる作品となってます。歌詞の中の「君」と「私」って言葉が二人の物語として、胸に迫って来ます。
表現の幅も広がってきて成長を感じます。イントロのフェイクでいきなり彼女の世界観を掴んでしまう、吐息交じりの声。Aメロからサビに至るまでにはファルセットと地声の行き来を上手く使って、曲の世界観を伝える様はプロの域の成長を感じます。エンディン時も当たり前のようにさりげないフェイク。世界観が出来上がったアーチストだから、何のためらいもなく、やってのけます。プロだなと思えました。
他にも名曲が沢山あって、書き足りなくなるので、この辺で。
是非、好きになってもらえたら嬉しいです。