【連載】そして音楽は何処へ行く(11) 〜4年越しのライブ〜
今回は『家族持ち大人バンド』の続きだ。前回迄の話はコチラ。
このバンドは30代以上で皆家族持ち。独身はいない。練習は月一のペースでやってる。メンバーは皆控え目で、積極的に前に進めるタイプの人間は皆無。それもそうだ、皆、仕事と家庭で忙しい。そんな合間に趣味の時間を作って音楽やってるのだ。
一ヶ月振りの音合わせ
今回は一ヶ月振りの練習。これまで同じ曲で4回もリハーサルやってるし、私的には飽きが来てる所。バンド曲も普段は聴かなくなったし、忘れかけてきた。そんな状態で久し振りの練習だ。
各自が何度も何度もパート練習してる曲が『やさしさに溢れるように/JUJU』だ。この曲はそれぞれのパートに課題があって、完成に時間がかかっている。形にはなってきてるが、部分部分の演奏の詰めが必要な曲。難しい曲ではあるのだが、不思議と皆、この曲には多くの努力を払うほど、気に入ってくれている。 とりわけ、キーボードはメインパートであり、最初から最後まで気が抜けない曲。キーボードの彼女は活き活きと取り組んでくれている。 選曲した自分としては嬉しい限りだ。
練習の始めに、この曲を30分ほど合わせた。私も新しいドラム・フレーズに挑戦している。要所要所を16ビート刻みに変更し、試してみた。他のメンバーの音をよく聞くと、コーラスの声が聞こえた。キーボードの彼女ががコーラスを入れながら弾いていた。ギターもサビの合間に入る、合いの手リード・ギターのフレーズにチャレンジ中で、メンバーに
ギター「このフレーズ入れる感じの弾き方でいいかな?」
皆「いいね。原曲もそんな感じだし、カッコいいじゃん」
ギター「そう? じゃ、これでいくか」
って感じで、皆が自分の出来る事に少しずつチャレンジしてる。曲が熟成され、味わいが深くなっていくのを感じる。大人が曲を扱うと、こんな風になるのかな? と嬉しく思っていた。
「ボーカルのキーが合わない問題」はファルセットで乗り切ってはいるが、私の心苦しい思いは変わらない。ボーカルの彼女なりの解決策なのは分かるが……。
そんな思いをよそに、次々と曲を合わせて行く。私は今回は少しビートにアクセントが出るように、ハイハットの使い方を変えた。曲のフレーズに合ったアクセント位置を意識し、全体のノリを作るように心掛けた。細かく刻む所も増やした。それに気づいたベースのバンマスは、
ベース「なんか、今日は刻んで来るねー」
私「ちょっと、もう少しノリがいい感じにしようと思って」
ベース「良いよ! 俺は好きだよ」
今日は皆、楽しく、熱く2時間の練習が過ぎていった。
練習終わりに、ランチに行く事がしばしばある。本日は行きたそうな雰囲気だ。でも、ベース、キーボードは家の用事があり行けない。私を含めた3人で行きましょう、という事になった。田舎のスタジオなので、近くのお食事処は、だいたい決まってしまってる。そこで良いよね? と確認して、何時もの店に向かった。
ボーカルのキー問題について話す
食事のタイミングで私はサラッと、これまで気にしていた事を切り出した。良い雰囲気だったので、思い切って言って見た。
私「ボーカルの歌のキーがね、原曲のキーだと、辛いでしょ?」
ボーカル「はい、そうなんですけど、今はファルセットにしてます。ボイトレの先生にもキーが高いねとは言われてます」
私「(ギタリストに向かって)キーって変更出来ないのかな? 譜面のキー変更しての演奏って、お願いしたら、皆対応出来るのかな?」
ギタリスト「うーん……、前にもやった事あるから、恐らく大丈夫だと思うけど」
私「このままだと、ライブやるんでもボーカルが気持ちよく歌えないからダメだよね? 皆演奏が固まって来たから、変更するなら今かな? と思うんだ」
ギタリスト「そうだね。変えるなら早くしないと、練習時間必要だから。もう他のメンバーに宣言しちゃおう」
という訳で、上手くキー変更に話が進んだ。他のメンバーにこの事をLINEする。キーボードからは即レスでOKの連絡が来た。バンマスも了解の連絡が来た。ボーカルも急いでキーを見つけて、ボイトレの先生にもキーが妥当か確認してもらう事になった。
私「良かった。嬉しい」
同時に私は反省もした。自分は皆を信用してなかった。一人で悶々として、勝手に悩んでた事が嫌だった。自分の性格の良くない所だ。自分だけで勝手に解釈してしまう。ちゃんと周りに聞いてみて、事実を確認すべきだった。そうすれば、もっと早く、この問題を解決に導けたのに。そういう自己嫌悪に陥った。これは改善して行こうと思った。もっと周りを信頼しなきゃ。
いよいよ、初ライブに向けて本格的に動き出す。このバンドは4年位前からやってるが、一度もライブをやった事がないらしい。理由はボーカルとドラムが固定化しないからと言う。何故、固定化しなかったのか? それ以外のメンバーは変わってないのに……と私は思った。別にヘタクソでは無いんだが……。月一の音合わせなんで、若い人はヤル気を失っちゃったのかな? と思った。それこそ今度、皆んなに聞いてみようかな。
さて、夏にはライブをやる予定だ。このバンドの4年越し、悲願の初ライブに向けて。