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時を遡る眼差し

あの日。あの時。あの瞬間。
映画『欲望の翼』には、時を遡る力がある。

初めて観たのは、レンタルビデオ店で借りたVHSだった。
『恋する惑星』が大ヒットし、ウォン・カーウァイ監督が脚光を浴びていた94年か95年頃だったと思う。当時わたしは、チェン・カイコ―やジョン・ウー、ホウ・シャオシェンなどの中国・香港・台湾映画を片っ端から観ていた。なかでもウォン・カーウァイの映画に心酔し、そんな彼の作品のなかで最もしびれたのがこの『欲望の翼』である。
ビデオを逐一止めながら、セリフだけでなく、印象的な掛け時計や人物の動きなど、ト書きまで書き起こしたほどだ。
なかでもこのセリフは、あれから二十年経った今も記憶に棲みついている。

「1960年4月16日 3時1分前 君は俺といた。この1分を忘れない」

今日、渋谷のル・シネマで、デジタルリマスター版の『欲望の翼』に再会した。
あれからVHSもDVDも購入し、何度も何度も観たはずなのに、初めて観るかのような不思議な感覚があった。
まるで時を遡ったかのように、わたしも二十代に戻り、登場人物たちと対峙する一方で、五十を迎えた現在のわたしの、若さを俯瞰するような一歩引いた眼差しを感じた。両者が同時に存在していたのだ。

マギー・チャンやカリーナ・ラウに二十代の自分を投影し、冷たい恋人に翻弄される姿に激しく共感しながらも、レスリー・チャンの母親が漏らす「若い頃を思い出すわ」という一言に、深く頷く。

過去と現在を、ごく自然に行き来するわたしがそこにいた。時の壁を超えて。

これまで、かなりの映画を観てきたが、わたしにそんな感覚を与えてくれるのは、この『欲望の翼』だけだろう。

そして、あの「続き」を示唆するラストシーン。
トニー・レオンの若々しさに惚れ直し、わたしは「これからのわたし」を見据える。物語の続きを探しながら。

あの頃の未来は、まだ続いている。





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