【教育実践】ディクトグロスについての報告①
いづれ教育論文なるものを執筆してみたいなと考えています。私の教育実践を提示するついでに論文の書き方も少し意識していこうかなと思います。暖かい目で見守っていただいて、フィードバックなどもどしどししてくださると嬉しいです。
今回は「ディクトグロス」について。
今年度英語コミュニケーションを担当させていただいています。そこでの言語学習の活動の一つとしてやっていることの中間報告と2学期からの展望について触れていきます。
はじめに
「ディクトグロス」という言葉がまだあまりなじみがなさそうですが、近年注目もされはじめているようです。
私自身もこの「ディクトグロス」を知ったのは英語活動集のひとつでした。前もって「ディクテーション」は行っていたのですが、それとはまた異なる、いや、より効果的な言語活動であることに驚き、さらに具体的な教育的実践方法に興味を持ちました。
ディクテーションと比較してみましょう。ディクテーションとは、読み上げられた英文の1単語、または1フレーズを「書きとる」という活動になります。音とスペリングの結びつきを意識するものです。しかし、この活動は、聞いたものをそのまま文字に起こすという一方的で受動的な活動です。
それに対して「ディクトグロス」はどういうものか。生徒にも活動前に説明しているイメージは「電話で伝言を受ける」というものです。
「あなたが電話で伝言をお願いされたとき、その伝言の内容を一言一句、メモしませんよね。重要なポイントになるところを箇条書きなどでメモをします。」
「そして、そのメモの内容を、そのままの形で相手に伝えませんよね。メモの断片的な内容を頭の中で再構築してから文にして伝えます。」
読んでくださる人もイメージがついたでしょうか。
ディクトグロスというのは、あるまとまった文を聞き、その内容をメモをして、そのメモを頼りに自分の英語で再構築するという、簡単にいうとリスニング→ライティングという総合的で、現実的な言語活動になるものです。
説明スライド1にも記載させてありますが、学習指導要領から見ても、生徒に求められるスキルは、流れてくる英文の「暗記」ではなく、「理解」です。ディクトグロスの活動はこのリアルさから「内容理解」のスキルを伸ばし、そしてライティングにおいての「表現力」も高めることのできる活動でです。
コミニカティブな言語学習が求められるこの時代にとって、ディクトグロスは大きな役割を果たすのではないでしょうか。
たしかに、ディクテーションと比べると、難易度の高いものになります。だからこそ、生徒の教育的ニーズのずれや、教員の足場かけなど、新たな教育的課題にも向き合うことになります。これは私自身も生徒と一緒に成長できるということにもなると前向きに捉え、日々の授業に導入しようと考えました。
今年度は、生徒の取り組み状況や成績との相互関係、そして、振り返りやフィードバック、ICTの導入により、このディクトグロスがどのように生徒の学力向上に影響するのかを長期的な視点で見ていきたいと思います。
参考文献から
まず、「ディクトグロス」の概要・概念については、先ほども紹介させていただきました、「ディクトグロス」を取り入れた 英語力を伸ばす学習法・指導 -新学習新学習指導要領対応 から勉強しました。
私達、英語教員はこの「統合的な」活動を目指さなければなりません。実際の生活の中でも、5領域とされているものが単独で行われていることのほうが少ないのではないでしょうか?言語を学ぶ意義が「受験のため」「テストのため」という短絡的な目的でなければ、この重要な言語学習の意義は考えて教育活動をしていくべきだと考えます。
また、ディクトグロスの利点としては「自分のことば」を使うことができるというものです。どうしてもコミュニケーション英語の授業で行うQ&AやTF問題は、自分の言葉を介さずに、教科書の表現をそのまま用いて行うことが可能になってしまいます。
しかし、ディクトグロスは、自分で聞き取った「メモ」を使って、「再構築」するという行程を挟むので、理解力のほかにも、思考力・判断力・表現力といった部分にもしっかり対応でき、「自分の英語」と向き合う時間ができます。
手段・方法
プリントの作成
使用する音源は、学習後の教科書原文にしました。学習前にも行っていたこともありますが、生徒は内容を全く知らない状態なのでかなり難易度が高くなってしまいました。今年度はその反応からも、既習の範囲を改めて「音」で聞き、本文の内容を思い出しながら組み立てるというアウトプットの活動としました。
※教科書著作権の関係もあるため、サンプルのものを掲載します。
このプリントでは、ディクテーションとディクトグロスを両方行います。第三段落構成のため、第1段落と第2段落をディクテーション。最後の第3段落をディクトグロスの部分としました。
すべてをディクトグロスにすると、難易度が跳ね上がり、英語が苦手な生徒は一切行わなくなってしまうことが予想されます。そのため少しでも自分できるタスクを与えるという目的もあります。
work1の部分で、第3段落の音声の「メモ」を行うスペースを取りました。そして、work2で「メモ」を使っての再構築。work3で学習後の振り返りを行います。
活動の流れ
【1】音声を流す。(リスニング)
音声は全部で4回流します。
・1回目:本文全体
・2回目:本文全体
・3回目:ディクテーション部分の様子を見て、第3段落(ディクトグロスの部分)のみ
・4回目:グループ再構築中
音声を流しているときの注意としては
①個人の作業(グループの共有は再構築後)
②行う作業は「メモ」のみ
①に関しては、活動のメリハリをつけるのももちろんですが、自分の英語力がどれぐらいのレベルなのか、何ができて何ができないのかをしっかりと自己分析できるかが大切だと考えます。そのため、友人の力は最後までとっておきたい。
②に関しては、音声が流れている段階で、ライティングに入ってしまうと、「ディクテーション」と同じものになってしまいます。あくまでも「メモ」を頼りに、断片的な内容を文として構築する活動をしていくので、再構築の活動に入らないことを周知する必要があります。
【2】再構築(ライティング)
3回の音声が聞き終わったら、再構築に入ります。ここでの作業時間もまだ個人の時間です。自分のライティング力を高める時間になります。ここでは、
①できる限りきれいな(完成された文)にする
②文法・語彙の正しさを優先する
ことに留意します。
ディクテーションに慣れてきた生徒は、原文通りの文を作る事に意識がいってしまいます。そのため、聞き取れなかった部分に穴をあけた、穴あけ文を作ることが多いです。それでは、リプロダクションになり、自分のことばではなくなってしまいます。そのため、穴あけ文にならず、文型・文法上ただしものを書くことに努める必要性を伝えます。
また、語彙や文法も「書きたいのに書けない」といったものにも多く遭遇します。スペルが分からないのであれば、簡単な表現や語彙に置き換えたり、抽象度をあげたりしながら、パラフレーズをすることで、生徒の表現力も高まります。
【3】共有
個人での再構築が終わったら、次はグループでの共有の時間を簡単にとります。ここでは個人の時間に見つけた「書きたかったけど書けなかった」のヒントを友人からもらったり、内容の振り返りや確認を行い「よりよい文」にすることを意識しながらやっていきます。この活動中では、
①色ペンに持ち変える
②ラスト1分でもう一度音声を流す
ことを行います。
①思考の切り替えを視覚的に見えるようにします。どこまでが自分の実力で、どこからが新たに得た視点から書いたものかを見えるようにすることで言語学習のメタ認知を高めます。
②最後の1分になってくると「なんだっけ」というプラスの意味でのモヤモヤが生徒の中にも出てきます。そこで、最後の確認という意味で音声を流すと、生徒が「知りたい」という姿勢の中で聞くことができ、一気に集中力が高まります。そのような前向きな学習に向き合う態度の育成も少しでもいいので提供していきたいです。
【4】答え合わせ・振り返り
4回流し終わり、共有の時間も終わったら、ディテーションとディクトグロスの答え合わせと分析に入ります。短冊状に切った原本を配布し、原本と見比べて書けなかったところを【語彙・文法・内容】の観点から振り返りをさせます。
①消しゴムは絶対に使わない事
②原本通りにならなくてよいので、自分の英語で書けていたかどうかをみること
を生徒に繰り返し伝えます。ディクトグロスの目的は「自分の英語」の育成です。生徒の「答えと一緒にならなきゃだめ」という固定概念と強く向き合わなければならない瞬間です。言語の目的を伝え続ける必要が大いにあります。
分析が終わったら、work3の振り返りに入ります。
リスニング・ライティングの側面から振り返り、気づいたことや反省点を記入するように指示をします。
1学期行ってみての感想・分析
考察①工夫をしようとしていた
やはり、難易度が高かったように思います。誰一人としてやったことがない「ディクトグロス」を計8回行ってきました。
生徒のプリントの様子を見ると、なかなか自信を持って再構築できた生徒はほんの一握りでした。いたとしても本文が比較的短かった時や、この活動のために本文を丸暗記する勢いで挑んだ生徒など。
不慣れということもあると思いますが、そのための生徒の足場かけがより求められることが感じられます。
ただ、「工夫」をしようとする生徒は多く見られました。メモのやり方の振り返りから見ても多くの試行錯誤の様子がありました。
・英語でやらずに日本語でやってみた
・分かる単語はイニシャルだけ
・イラストを使ってみた
・矢印などで結んでみた
など、それぞれのメモの方法を模索している前向きな生徒が多かったように思います。流れ去っていく英文をいかに理解しようとするかという力は、リアルな言語活動でも大きい成果になって繋がっていくのではないでしょうか。
また、この「工夫」をしていくという姿勢は「主体的に学びに向かう態度・人間性」の育成にも関係しています。その中でも「自己調整」のスキルが向上したと実感できます。自分で学習時の課題を発見し、その課題に対して工夫をして解決に向かうこと、この探究的な姿勢はディクトグロスの活動の継続の中でも育成が可能だと確信しました。
考察②ライティングが課題
リスニングに関しては、先ほどのように「工夫」がしやすいところだったのだと思います。様々な方法から自分のやりやすい方法を見出すという姿勢はよかったのですが、それがライティングになるとその「工夫」の幅も少なくなっているように見えます。
これは生徒の「ライティング」へのニーズの低さと、「苦手意識」からきているのではないでしょうか。テストの点数や、受験のための短絡的な学習ではたしかにこのような創造的なアウトプットの活動は必要とされず、生徒にとってもあまり挑戦する意味を感じられない分野なのかもしれません。
そのような生徒の心境からもライティングへのスキルアップというところが次の課題になるように思います。
また、私自身にとっての課題も見つかりました。生徒一人ひとりへのフィードバックが追い付かないということ。英語教員の大きな悩みとして、ライティング課題へのフィードバックには大きな時間面と労力面の負担がかかります。今年受け持つ生徒は約200人。毎回このディクトグロスのライティングを詳しく見ることが業務的に厳しい。そうなると生徒への「やりっぱなし」を助長してしまう。
生徒自身がミスやポイントに気づき、自分で自分を成長させることができるためにも、教師側のサポートが必要です。そのサポートをどのように効率よく提供できるかを「工夫」していきたいところです。
考察③英語と日本語の「音」の違いが分かるようになった
リスニングを受けてライティングをするという一連の学習をおこなっているからか、生徒の振り返りの中に「音」に関する記述が多くありました。
・英語はつなげて読むから、それを意識してライティングしていきたい。
・細かい単語が聞き取れない。
・前置詞や冠詞がいつも聞こえない。
英語特有の機能語についてに気づくことができています。学習前に内容語と機能語についての説明は行っていなかったのですが、このような声があったからこそ、生徒自身が、日本語と英語の違いに気づき、重要性に触れることができたのではないでしょうか。
ただ、機能語自体をも聞き取ってメモをしようとする、やはり「原文通り主義」の生徒も一定数います。そのため、返却時に、赤ペンで「冠詞や前置詞は英語はそもそも読まないので、文法上の知識からカバーしてもいいかも!」というアドバイスを付けました。
2学期への展望
1学期行ってきたことで見えてきた生徒の特徴や課題を踏まえ、プリントや方法を改良していきます。
①プリントをリニューアル
まず、ディクテーションをカットします。1学期の様子を見ていても、かなりディクテーションに関してはできていました。スペリングのところも少し課題として見られましたが、ディクトグロスの部分でも強化できるために、統合をし、活動自体をシンプルにします。
また、この後も追記しますが、振り返りの部分を改良します。先ほど課題にも上げた「フィードバックの不足」に対応する形にしており、生徒自身が自分のライティングのボトルネックになるところや、文法上のエラーに気づきやすくしました。
②ChatGPTの活用
生徒が実際に書いたライティングの写真をchatGPTに読ませることで、
①文法上のミスの私的
②ルーブリックを用いての点数化
③励ましやアドバイス
を打ち出すプロンプトを開発しました。生徒は活動後にこれらをchatGPTから受け取り、プリントにそのことも踏まえた振り返りを行うという形にしたいと思います。
これを行うことで、教師側のフィードバックへの大きな負担も減らし、また、生徒が欲していたアドバイスや「やりっぱなし」を防ぐということにも繋がるのではないでしょうか。
以上①②の改良点です。これらの変化によって、生徒自身がどのように変わっていくのかを今後も研究してみたいと思います。
終わりに
生徒の様子を見ていると、一生懸命やってくれます。難しい活動にも関わらず、「とりあえずやるか」という感じで向き合ってくれます。また、活動後の振り返りの文字を見ていても、大きな気づきを得ています。
・単語が肝心。単語力を高めよう!
・リスニング毎日やらなきゃだめだ。
・ライティングで自分の表現を高めたい!
・英語と日本語の音の違いが分かったから、もっとわかるようになりたい
などの前向きな言葉に私自身も救われることもあります。しかし、ここで私はある疑問を抱きます。
「はたして生徒たちはこの目標に対しての行動をどれだけしているのか」
気づいてはいるけど、課題解決への行動をしているのか。前回の反省をどれだけ意識して行っているのか。活動一つ一つが結びついた長期的な学習ができているのか。
きっと自信を持って「はい!」と答えてくれる生徒は少ないように感じます。その理由は、書いてくる振り返りに変化が少なくなってきたということです。毎回「単語がやっぱりだめ」などのように、同じ課題を毎回出してくる生徒も少なくありません。
そのため、ディクトグロスにかかわらず、生徒に求められているのは「改善力」なのではないでしょうか。
どの教科、いいえ勉強に限らず、課題を見つけたという大きな一歩を歩めたからこそ、その課題に対しての「行動」を起こさなければ何も変わらない。このことを生徒と一緒に考え、英語の授業を通じて強化していけたら、生徒の学力という数字だけでは見えない非認知能力の向上にもつながり、最終的な教育のゴールでもある「持続可能な社会の創り手」にもなるのではと考えます。
そんなロールモデルにもなれるように、私自身も課題と向き合い、行動する「改善力」を持った人になれるように、今日も明日も、教育頑張ります。
また、ディクトグロスについての報告をさせてください。
長文になりましたが、読んでくださりありがとうございました。