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世間に広がる意味不明:巨額の投資と失敗のリスク(JOLEDの教訓)

■成功を約束された事業などない

有機ELは優れた特性があり、曲げることができるディスプレイとして注目を浴びたことがある。有望な市場であったのであろう。

一方で有機ELは製造の難しさがあり、市場をカスタマー製品に絞るのであればコストをどう下げるのかが課題の一つであったと思う。高級品でなければそこそこの品質でと言うドライブがかかる。競合他社も出てくるであろう。市場ニーズはあるものの、そこで勝ち抜くことは難しいと思われる。

○ソニーとパナ統合のJOLED、民事再生法申請 2工場は閉鎖へ
2023年3月27日

 ソニーグループとパナソニックホールディングスの有機EL事業を統合したJOLED(ジェイオーレッド)は27日、東京地裁に民事再生手続きの開始を申し立てたと発表した。負債総額は337億円。技術開発部門は液晶大手のジャパンディスプレイ(JDI)に引き継がれるが、製造拠点の2工場は閉じる方針だ。

JOLEDは、ソニーやパナソニックが大型テレビ向けの有機ELの事業から事実上撤退したことを受け、官民ファンドの産業革新機構(現INCJ)などの出資で2015年に設立された。

https://www.asahi.com/articles/ASR3W6X69R3WULFA01W.html?ref=smartnews

■他者依存の政策ではリスクが高い

 巨額の投資は副作用が発生する。事業の撤退は直接的には、そこに投資してきた関連企業にダメージを与える。

 ソニーグループとパナソニックホールディングスが統合したの有機EL事業という以上に期待があったから政府系ファンドや自治体、デンソーや豊田通商、住友化学が投資しているはずである。

 ジャパンディスプレイが技術開発部門での事業を引き継ぐ一方で生産ラインは廃棄することになるので、デンソーなどが工場を引き受けなければ、投資は失敗(無駄)したと言うことになるだろうか。

 競合と戦うことだけでなく、サプライチェーンの上流・下流などにも目を配る投資戦略が有効な場合もある。若干揶揄するニュアンスがあるものの、事業買収は自社の弱点を補うという意味でも重要である。

 しかし、巨額の投資はリスクが高いことは認識するべきであるとともに事故責任であるコトも忘れてはならない。

■感情的な問題も引き起こす

 事業から撤退する判断は理解できるものの、公的資金が投入されていることを考えると責任問題にも発展しかねない。操業開始からあまり日を立たない内での撤退は、いろいろな軋轢を生む。

○JOLED、能美で150人解雇 県、補助金全額返還求める 知事「雇用支援に全力」
2023/03/28

 有機ELパネル開発・製造のJOLED(ジェイオーレッド、東京)は、閉鎖を発表した能美事業所の従業員約200人のうち、150人程度を解雇する。28日、石川県庁で同社の井上栄次副社長執行役員から説明を受けた馳浩知事が明らかにした。馳知事は、県が同社に交付した補助金14億円に関しては、全額返金を求めていく考えを示した。

https://nordot.app/1013342604709871616

もっとも、申請に虚偽があったのでない限り、「金を返せ」は感情論であり、投資判断をした行政側に責任がある。それでも工場閉鎖は地域経済にも影響が出るだろう。

■投資は続く。これからも。

先端技術を使用した事業、あるいは大規模な事業展開を考えた場合、自社だけの経営資源だけでは無理な場合には、投資を求めることになる。そのきっかけは自社の事業戦略による場合もあるし、第三者からの働きかけもある。

○どうなるパワー半導体業界再編、東芝・ローム・三菱電機の行く末
2023.03.27
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/032401247/?n_cid=nbpnxt_fbed_dm&fbclid=IwAR1IAAfEHmNNGEmyvCtp9zJFVeBmRd4NBLj9F65wR0RRSOZH1Gjdo6n_AdE

背景にはラピダスに関する政策もうかがえる。
政府の働きかけで業界再編が起きることもあるし、相互のパワーバランスの結果で起きることもある。

 投資は企業戦略の中核であり続けるだろう。

○ルネサスが買収するファブレス半導体メーカーの正体
2023年03月29日

パントロニクスは従業員80人規模で、近距離無線通信(NFC)チップやソフトウエアなどを手がける。ルネサスは買収によりNFC技術を内製化し、NFC市場で優位性を発揮する狙い。

https://newswitch.jp/p/36400

 とはいえ、全てが旨く行くことを前提とした事業戦略はあり得ない。
 投資についてはお金の問題ではあるが、人的資源については配慮が必要だ。
 すでに工場は稼働しており、雇用をしている。
 後始末のことも考えること。

<閑話休題>

(おまけ:その他の記事)

○パナソニックとソニーの有機EL事業を統合したJOLED、民事再生法を申請 負債総額337億円 JDIの支援で再建目指す
2023.03.29

 今後はJDIによる支援のもと、有機ELディスプレーの開発を続ける。一方、製造・販売事業に関しては「早期かつ抜本的な収益改善の道筋がたっておらず、同事業をこれ以上継続することは困難」(同社)として撤退を決めた。能美事業所(石川県能美市)と千葉事業所(千葉県茂原市)は閉鎖し、従業員約380人のうち、製造部門などの約280人は順次、解雇する方針だ。

https://www.netdenjd.com/articles/-/282541

○有機ELパネル専業メーカー「JOLED」が民事再生手続き ジャパンディスプレイの支援で技術開発に専念へ
2023年03月28日

有機ELディスプレイの生産において想定以上の時間やコストを要したこと、世界的な半導体不足の影響を受けたこと、競争環境の変化などにより、収益の伸び悩みと資金流出が発生。法的手続きによらない経営再建を模索したものの、それが困難であると判断し、裁判所が関与する民事再生手続きを選択したという。

 先述の通り、同社の技術開発部門は過去の出資元であるJDIがスポンサーとなって経営再建を行う予定となっている。

https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2303/28/news102.html#smartnews_pcuser

○JOLED破綻「影響、計り知れない」 能美事業所閉鎖、住民や従業員から不安、戸惑い
2023/03/28
https://nordot.app/1013342567957774336

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