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本棚を歩く:ファースト&スロー(情報が正しくても直観は見間違う)

本棚を歩く:ファースト&スロー(情報が正しくても直観は見間違う)

一時期話題になった書籍である。帯に「人間の意思決定メカニズムを徹底解剖する行動経済学の世界的ベストセラー」として「東大で一番読まれた本」と銘打っている。

邦題は
ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 2014/6/20
ダニエル・カーネマン (著), 村井章子 (翻訳)
であり、現在でも文庫本で入手可能である。

何かしらの経営マネジメントに関わる人々にとって、人々はどのような意思決定メカニズムで動いているのかに関心を持つことは必須である。その意味でこの書籍は有用である。

本の中心的なテーマには、「なぜ、人は合理的な判断ができないのか」ということがある。

ヒトはどのように判断をしているのだろうか? 直感に基づく判断、理性を駆使しての判断。それぞれをシステム1、システム2と呼び、これを中核としたさまざまな事柄が展開している。このシステム1、システム2を指して、表題の「ファースト&スロー」が付けられてのだろう。

ところどころに統計的な話が出てきており、全く数学的な話が苦手という人は少し注意したほうが良い。最も呼び飛ばしたからといって問題があるわけではない。ただし、近年話題になっているベイズ統計なども出てきており、確率の計算方法が理解できないとなぜこのような結論になるかがわからないところもある。

すこし、中核となるシステム1とシステム2について記述する。

システム1は、一言でいえば「直感」に近い概念だ。それを支えるのは、理性ではなく記憶になる。記憶といっても、多型的に蓄積されたものではなく強く印象として残っている記憶だ。したがって、直近の大きな出来事に左右される。一方システム2は理性で判断するものの、基本は「怠け者」であるためにめったに出てこない。

さて、そうするとどうなるか。多くの意思決定は印象強い経験に基づいて判断するために往々にして錯覚を引き起こす。こんなはずではなかったということの根源はここにある。

「なぜ人は勘違いするのか」、「なぜ人は合理的な判断ができないのか」というのが本書のメインテーマにしていろいろな角度から、実験結果を基に議論を展開しているのかが特徴の書籍になっている。

著者のカーネマンは心理学者である。心理学の研究分野は人を対象とするために、そもそも事象は再現性に乏しい。特に「こころ」の問題は一筋縄では行かない。いくら説得性の高い文書であってもすべてを受け入れられるわけではないが、それでも科学的な実験や統計学を論の基礎としているので示唆に富んだ話になっている。

書籍は、上下二巻になっておりかなりのボリュームでそれなりに読みごたえはある。ただし、章立ては細かく整理されている、一節を読むのに10分程度で片付くだろう。少しずつでよいので少し挑戦してほしい。

参考のために目次を掲載する。

第1部 二つのシステム
第1章 登場するキャラクター
 - システム1(速い思考)とシステム2(遅い思考)
第2章 注意と努力
 - 衝動的で直感的なシステム1
第3章 怠け者のコントローラー
 - 論理思考能力を備えたシステム2
第4章 連想マシン
 - 私たちを誘導するプライム(先行刺激)
第5章 認知容易性
 -慣れ親しんだものが好き
第6章 基準、驚き、因果関係
 - システム1の素晴らしさと限界
第7章 結論に飛びつくマシン
 - 自分が見たものがすべて
第8章 判断はこう下される
 - サムの頭の良さを身長に換算したら
第9章 より簡単な質問に答える
 - ターゲット質問とヒューリスティック質問

第2部 ヒューリスティックとバイアス
第10章 少数の法則
 - 統計に関する直観を疑え
第11章 アンカー
 - 数字による暗示
第12章 利用可能性ヒューリスティック
 - 手近な例には要注意
第13章 利用可能性、感情、リスク
 - 専門家と一般市民の意見が対立したとき
第14章 トム・Wの専攻
 - 「代表制」と「基準率」
第15章 リンダ
 - 「もっともらしさ」による錯誤
第16章 原因と統計
 - 驚くべき事実と驚くべき事例
第17章 平均への回帰
 - 褒めても叱っても結果は同じ
第18章 直感的予測の修整
 - バイアスを取り除くには

第3部 自信過剰
第19章 分かったつもり
 - 後知恵とハロー効果
第20章 妥当性の錯覚
 - 自信は当てにならない
第21章 直観対アルゴリズム
 - 専門家の判断は統計より劣る
第22章 エキスパートの直観は信用できるか
 - 直観とスキル
第23章 外部情報に基づくアプローチ
 - なぜ予想は外れるのか
第24章 資本主義の原動力
 - 楽観的な起業家

第4部 選択
第25章ベルヌーイの誤り
 - 効用は「参照点」からの変化に左右される
第26章 プロスペクト理論
 - 「参照点」と「損失回避」という二つのツール
第27章 保有効果
 - 使用目的の財と交換目的の財
第28章 悪い出来事
 - 理恵起きを得るより損失を避けたい
第29章 四分割のパターン
 - 私たちがリスクを追うとき
第30章 滅多にない出来事
 - 「分母の無視」による過大な評価
第31章 リスクポリシー
 - リスクを伴う決定を総合的に扱う
第32章 メンタル・アカウンティング
 - 日々の生活を切り盛りする「心理会計」
第33章 選考の逆転
 - 単独評価と並列評価の不一致
第34章 フレームと客観的事実
 - エコンのように合理的になれない

第5部 二つの自己
第35章 二つの自己
 - 「経験する自己」と「記憶する自己」
第36章 人生は物語
 - エンディングがすべてを決める
第37章 「経験する自己」の幸福感
 - しあわせはお金で買えますか?
第38章 人生について考える
 - 幸福の感じ方

目次の多さにたじろがないで欲しい。
もちろん、はじめから順番に読むことは著者の意図をトレースするには良いだろう。しかし、内容が少し難しいので、興味の持てそうな表題の章を拾い読みするのも悪くない。

1度手に取ってみて欲しい。

(2024/04/07)

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