水車ダンマス編 第2話
102 4敵は海賊 6ギフト最強 1ゴブリンの依頼 2軍備
島嶼の中程にある平坦な、しかし、やや大振りな島にて、水車発動機の不調の為飛行も儘ならなかった水軍の飛空挺も漸く改修の大分を終え、小隊単位での飛行訓練が再開されていた。元王国港湾の奪取の目処が立ったのだ。
空軍は制空権をほぼ完全に取り戻したらしいが、地上兵力が圧倒的に足りない為、陸軍との合流を待って反攻の烽を挙げる手筈だ。水軍の作戦もそれに呼応して行われる。
だが、それまで暇だ。
「付近の湖族を徹底残滅し、それを持って新生イーバラク共和国に仇なす輩の心胆を寒からしめよ」
水軍元帥リオム・クノ・カモートスの顔は晴れやかである。元王国兵部省長官エーアス・クガ・バラクを執政官に戴く新生共和国水軍としての初の作戦であるのだ。
「ここから伝説を始めるぞ!」
水軍五千の将兵達の挙げる歓声が轟と鳴った。
虎治が何もしないでも、幾つかの問題が解決した。
「吸収させた物は召喚可能になるの?」
「内部的な説明困難な条件次第なので、必ずとは言えませんので可能性ですが」
試しに食べ掛けのバランス栄養食を吸収させてみた。「やべ、毎日十四箱呼び出せるじゃん」成功のようだ。
召喚した少女は送還しているので今はいない。再召喚に二日間掛かるのだが、例え瀕死であろうと万全の状態で呼び戻せる。つまり、食費さえ要らない。なのに、余裕ができた。
コアは外に出て素材集めを強く推奨した。
「モンスターに襲われたらどうするのさ」
自慢じゃないが猫にすら勝てない自信がある、武器とかもないし。
「ギフトが複数ありますが、その内の[死に戻り]が有効です。但し、1日一回まで」おーそれは便利…。
「死ぬの痛そうだから嫌だ。他に良いギフト?ないの?」 ステータスを見れば可なり詳しく書いてあるのだが、虎治はマニュアルを読まずにゲームを始めるタイプだった。
コアが溜め息を吐いた…様に見えたが、そんな機能はないので気のせいだろう。
「人形遣いが有ります。人形(ひとがた)でなくても良いので、護衛になりそうな物を拵えると良いでしょう」
それ用の素材は勿論外にある。しかも、道具も何もない。仕方がないので恐る恐る外に出て、虎治は人形と言い張る事が出来そうな木の枝や根子、それっぽい石と土くれを拾って来た。
「アーカイブを経由させればある程度の自立行動が可能になります」
結論から言うと、無茶苦茶便利だった。
「ゴブリンが面会?」空軍指令サルー・モイ・チュダイのところへは相変わらず珍妙な来客が引きも切らない。
「何でも、ソンボーの危機とからしいですぜ」戦死した曹長、いや、二階級特進で少尉か、の二番機であった少尉も昇進して、中尉が報告する。曹長に強い影響を受け、ぞんざいな敬語の使い方までそっくりに育った。もういいや、これが空軍の伝統で。
「ソンボー?なんかやばそうだな」会ってみると顔を白く塗りたくった小綺麗な身なりの小鬼だった。勿論通訳嬢帯同だが必要なかったかもしれない。
「儂らの村襲われた、人の姿してた、木の兵隊土の兵隊沢山沢山」
「ゴブリンの集落がヤバイと言っている」
通訳無い方がよく分かった。
ゴーレムとマリオットの集団が東の剣山の方から現れたらしい。
「ダンジョンかよ」
老若男女見境なく殺しゴブリンは逃げ散るしか出来なかった。
「ゴブ悪いしない、天罰無い、お腹大きい雌逃げられない、皆死んだ」
うわぁ、正に存亡の危機じゃんか。群の安定度は雌の数に掛かっている。雄が何百頭いようと雌が一頭では一匹の仔しか生まれないのだ。森人の長に言って難民受け入れして貰おう。え?もうその話すんだの?じゃウチに何の用?あー、やっぱり東側一帯の治安回復ね。長官…じゃないや、執政官に聞いてみるからお返事は待っててね。
膝丈程もない人形達を素材集めに送り出す。虎治は人形製作のノウハウの研究だ。幸いな事に繋がってさえいれば、一個の人形と認識されるらしく、関節部を可塑性のある粘土で繋げる事で可動性を確保出来た。強い力が掛かると外れてしまうだろうが、意外な事に、虎治が引っ張った位では外れない程には強靭だ。平たい石に四本足を着けて大きめの手を持つ人形を作って作業を手伝わせてみたら、虎治より余程上手い。腰丈程の四つ足人形が瞬く間に増えていった。
「完成品は吸収させておいた方が効率良いかと」
「手作りならDP使わないですむだろ?」
どこから知識を得たのか、ガラス質の石を拾って来て、刃物代わりに使う様になって効率はあがった。その石で槍を作らせたので、その日のうちにちょっとした軍隊ができた。戦列を組んで戦う事を教えた。明日は人型に挑戦しよう、と虎治は思った。
「あ、寝床」
目がしょぼしょぼしてきて寝ようかと思った時、寝藁になる物を集めさせるのを忘れていた事に気がついた。
「で、なにが問題なんだ」ダンジョンの掃討に難色を示すシャオに詰問する司令。
「神樹は歪なダンジョンを保護する事に決めた。異例な速断」
「隣人が絶滅寸前の被害を受けたんだぞ、何もしない分けにはいかんだろう」
「いま神樹から、限定的な介入なら許可すると」
許可がいるのか?
無視したらどうなるんだ?
「森から排除される」