水車 第二章 第9話

 試しに火薬式弾頭ボルト何発か持って行きたかったんだけど、陸軍の主計官に渋い顔をされた。魔石とか劣化させちゃうから運送経路まで考えないといけないらしい。
 二十本ぐらいで良いんだけど…。それ位なら、と言う事で保管所に貰いに行ったら水撃銃の口径に合うボルトがなかった。大口径水撃銃も必要か、今回は間に合わないな。
 そんな訳で
 「おちねー」
 ただ追いかけっこしただけで二度目の強硬偵察は終了。うん二機相手でも有利に戦えるね、落とせないけど。知らなかったけど、圧縮真空って防壁代わりになるのね。敵機が側方から苦し紛れに撃ったボルトがバルジに命中、爆発したが、被害はバルジに空いた穴だけ。なんでも斥力が爆発ごと空いた穴から弾き出すらしい。
 そいや、飛んでるボルト空間ごと止めて観察できたな。考えるの辞めよう、シャオの作ったもんだし。

 「申し訳ありません、取り逃がしました」報告に来た搭乗員を手を振って下がらせる。
 確かに命中したのを見た。爆煙も確認した。しかし、何事も無かったかのように機動を続け水戦を圧倒し悠々と去った。
 「戦車かよ」あれを落とすには大型の弾頭が必要だ。しかし魔法の付与無しで当てられるのか?いっそ爆弾積んで体当たりを命じようか。
 ガンルームの航空士官達に、敵ジェット機への対処方針を告げた。
一つ、三倍以上の優位で空戦に入る事。
一つ、敵一機に対し常に二機以上で当たる事。
一つ、上昇する敵は追わない事。
一つ、敵パイロットか、エンジンを集中して狙う事。
一つ、後ろに着かれたら急降下で離脱する事。
 離脱の余裕が無い時は、敵の苦手な機動、ロール(機軸を中心に回転する動き)左右の切り返しで前に競り出させる事を試みるしか手はないだろう。「敵ジェット戦闘機の呼称を[ジーク]とする」零戦と違って火力の小さいのが救いだな。
 「それではよろしくお願いします」普段使いの敬語に戻す事で、勇者はミーティングの終わりを告げた。

 「人間と同じ、体表から魔素の散逸を防ぐ機能がある」シャオが陸軍の技官達に説明してるのは、なぜ水車は硫黄の影響を受けないかだった。
 「シャオ、いいか?」切りの良さげな処で声を掛けた。
 「なに」不活性にした硫黄の事、と言うと、技官達も聞き耳を立てる。
 「あれさ、運ぶ時は不活性にして、使う時に活性化するって出来ない?」技官達がざわめく、シャオは暫く俺の顔を見てて、ポンと手を叩いた。
 「活性化する必要はない」はい?
 「不活性なのは、魔素に対してだけ」え?えぇー!!
 「不活性でも普通に燃える。火薬も爆発する」有りとあらゆる問題が解決した瞬間だった。
 幸い、硫黄不活性化の術式はコロンブスの卵的な簡単な物で、シャオがほんの数分で術式を刻んだ魔石を俺ですら複製できる。たぶん。
 後は時間との勝負だ、技官達は各部署へ連絡に走り回っている。俺も走った。長官に連絡しないと拗ねる…じゃなくて、報告は義務だった。
 シャオには魔石が一番手に入りそうな水軍府に行って貰った。一人じゃ心配だから先任の陸軍技官に説明役として同伴をお願いした。
 飛空艇部隊には、夜っぴいて遅滞行動して貰おうか、いや、明日の決戦の主役だ、無理させるのはよそう。

 幸いな事に、勇者の進軍が始まったのは日が上ってからだった。二時間は稼げた。陸水軍にも手伝って貰った突貫作業は鷲型飛空艇の銃器の換装だけとなった。まあ、飛空艦はほぼ載っけるだけでいいし、二連気球隊は弩を歩兵銃に持ち換えるだけだしね。
 昼を大分回った頃、遠くの空に敵らしき黒点が現れた。直ちに出撃命令を出す。
 鷲型は一機、整備に手間取っている。すまん、ペラ飛空艇の援護しててくれ、終わり次第追いかける。列機を単機で送り出した。死ぬなよ。てか、敵多くないか?三十機位?
 遠話函を取る。「気球隊は飛空艦から離れるな、援護下で戦え。飛空艇隊は囲まれる事に注意、単機には絶対なるな」

 「エンカウント、大型飛行船五機内二機新型、小型六機、レシプロジョット四機、ジークはいない」
 「予定通り、敵を殲滅せよ」
 「急降下爆撃隊、飛行船を撃墜せよ」
 「了解、全機高度とれ、単縦陣で突っ込む」
 「くそ、高度差がとれない」
 「爆弾捨てて銃撃じゃ駄目すか」
 「三番機がやられた」
 「散開!散開!」
 「ジークだ、どこから現れた!」
 「振りきれない!援護……ツーツー」
 「編隊長!状況を報告せよ!何が起きている!」
 「敵は少数だ取り囲め!」
 「無理っす、近寄っただけで瞬殺っす……ツーツー」
 「全機離脱!こいつは化け物……ツーツー」

 いやー間に合った、てか列機を送り出したら、一分もしない内に、整備終わりましたって、大急ぎで飛び出しましたよ。無事合流して只今上昇中。
 「どこまで上がるんすか」まだまだだよ。冬と言っても太陽は可なり高い。そこからの逆落としは完璧な奇襲じゃね?
 「ははは、了解」飛空艦を狙っている集団に逆落としを掛けた。お誂え向きに一直線に並んでいた。付与の付いたボルトは敵に肉薄する。そこで付与は霧散するが慣性は消えない。そして弾頭に詰まっているのは魔法とはなんの関係もない火薬だ。爆散する、片翼が吹き飛ぶ、発動機と舵を破壊されて制御不能になる。一航過で五機を撃墜した。
 上昇反転から残った敵に止めを差す。回りを見回すと、味方はほぼ優位に戦いを進めていた。

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