水車 第二章 第5話

 「お帰りなさいませ、御主人様」森に帰るとやけにシャープな顔立ちの美形の女官に出迎えられた。太子様なんだけどね。いや勘弁してください、どう反応して良いか分からんじゃないですか。
 「こういうのが好きと聞いたぞ」誰から、長官?なんで王族巻き込んで冗談仕掛けるかな、不敬罪…あ、長官も王族か。兎に角困りますからそういうのやめて。
 女装は気に入ったみたいで止める積もりは無いらしい。「胸元が苦しくなくて良い」はい?聞かなかったことにしよう。
 憲兵隊の脅威も無くなった事で工廠長は軍府に帰ることになった。留守番の准尉が泣き付いてきたらしい、やっぱ無理だったか、てか挫折早くない?
 シャオは残る。神樹に用があるらしい。
 中尉は旗艦を二番艦に乗り換えて気球隊の再編が終わるまで軍府に残る予定。
 一番艦は多分廃艦になるだろう。あっちこっちゆがみまくってたし。でも五番艦から艦型ががらりと変わるんだよな、同型艦がなくなるな。一番から三番まで纏めて運用するか。そいや五番艦の進空何時だっけか。

 「ウルクハイ?」森人の長は鷹様に頷いた。冬季限定でオーク、コボルト、ゴブリン等の精霊由来の亜人に森人の領域の周辺域での居留を許しているらしい。
 女性が拐われたりしないのか?
 「それは人族の妄言」通訳殿は森人よりのスタンスらしい。
 「子供を作ることは出来るが無闇と襲うことはない」さらに「強姦や獣姦は人族の専売」手厳しい。
 でウルクハイてのは?オークと人間を魔法的に掛け合わせて生まれるんだっけ?
 「オークの肉体に人間の狡猾さ」
 「ちなみにレイプを常習する唯一の亜人種」
 「下劣さも人間並み」なんかディスられてるし。
 そのウルクハイは隣国軍の置き土産で、駆逐した筈が生き残りがいたらしく、繁殖しているのだと言う。魔法でしか生まれないんじゃないの?
 「普通に普通の繁殖もする」で、退治するのを手伝えと?うち空軍なんだけど。ま、いっか、二連気球部隊の気球は半数が出撃不能だし。
 て、空戦に参加したの全滅なんだけど、大丈夫か?空軍。
 支援部隊や陸戦要員は開店休業状態、訓練代わりに参加するか。ん?オークの仮集落で作戦会議?了解。

 ここの処シャオは毎日のように神樹を訪れている。仕事はきちんと熟なしているので、構わないのだが何をしているのか気になった。
 「時空の交点」もっと詳しく。
 「レコードのアーカイブが露出している」アカシックレコードの事かな?コクりと頷くシャオ。
 「全ての魔素=情報はアカシックレコードに吸い込まれ出てくることはない」
 「神樹は例外言わば…」
 「…言わば裸の特異点」
 なんか凄いものらしい事は分かった。

 王都上空空戦の報告書が纏まったと書簡が届いた。
 敵機総数の集計五十余機、撃墜十二機、撃破約二十機、我が方は被墜四機、大破中破合わせて八機。それに旗艦も墜ちてる。
 数字で視ると赫々足る戦果だが、補足があって、戦果の重複甚だしと認む、と。敵に与えた損害はこの半分以下だろうと、参謀長。
 少し考えれば判る。グルングルン機動しながら周りの情況を正確に捉えるのは至難の技だ。
 たった一機相手の空戦を身を持って体験した俺が言う。わけがわからなかった。況してや数十機の敵味方が入り乱れる戦場で正確な記憶など保持できる筈もない。
 目の前で墜ちていく敵機があれば、自分が撃墜したのだと錯誤も生まれるだろう。急降下で離脱する敵機は気球の機動に慣れた者には、墜落に見えるのではないか。
 報告には続きがあって墜落した敵機は、王都内で二機、郊外大分離れた所に一機見付かったと言う。捜索は続いているらしいので、まだ見付かる可能性はあるが余り期待は出来ない。
 なんか、考えないと駄目だな、常に二機で行動して、互いに確認し合うとかどうだろう。

 勇者は眉を潜めていた。橇つき飛行艇二個中隊での作戦は予想外の被害を受けた。撃墜されたのは三機に止まったが、帰りつくことが出来なかったのは更に五機合計八機もの未帰還が出た。
 帰還したものの廃棄せざるを得ない物も数機ある。まるまる一個中隊失ったのと同じだ。いや、パイロットの損害は数人に留まるから、機体さえ補充出来れば直ぐにも再編出来ることは出来る。
 しかし、これは避けるべき消耗戦の到来を示しているのではないか。憮然たる思いで踵を返した。

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