水車 第三章 第9話

 参謀長からストップが掛かった。
「あの中を飛ぶ気ですか?」空一面カゲロウだらけだ。あ、むりだわこれ。
「発進中止!掩体へ戻せ!」兵曹の誰かが仕切る。
 命令の先取りは駄目だよ。てか、ウチじゃ普通だけど。コンマ一秒争うような戦闘ばかりしてたからねー、仕切れる奴が仕切るみたいな習慣ついちゃった。うぉっと、ブレスだ。森、盛大に燃えてるなぁ、神樹大丈夫か?て、いきなり火、消えたし。え?真空魔法の応用?そんなのもできるんだ。
 戦況はさっばり分からん。飛竜が暴れてるのは分かるが、森人の丸太気球が殆ど見えない。二機ばかりブレスがかすって隠蔽が解けたのがあったので居るのはわかるんだけど。てか、丸太気球、知らぬ間に丸太じゃなくなってる。なんか、前衛芸術の彫刻みたいになってるし。
「ありゃなんだ?」なんだかやたら長いもわっとしたのが、飛竜に近づいていく。あの長さは竜骨か?もう飛べるようにしたんだ。飛竜は気付かない。顔面狙ってひっきりなしに魔法が飛んで来るんだから、気付くどころか、回りの様子も録に掴めていない筈ではある。もわっとした竜骨が膨らんだと思ったら神樹になった。すげー、神樹が空飛んでる。

 周りになにか居るのは分かってた。がブレスを吐き散らしても、四肢や長大な尾を振り回してもまるで手応えがない。そのくせ、顔面目掛けて魔法を放ってくるのだ。効きはしないが煩わしい事この上ない。
 と、突如目の前にユグドラシルが現れた。食らいつく、歯応えがない、食いつこうとした辺りはスポンと消えて周りの枝が絡み付いてくる。あぁ、エルフの魔法だ。あのシャオとか言う娘の魔法だ。どこに居る、焼き付くしてやる。しかし、いくらブレスを薙いでも枝は燃えない、湯気さえでない。勇者=飛竜は恐ろしくなってきた。絡み付いた枝がギリギリと締め付けてくる。勇者は転移の魔石を使った。
 (あれ?どこに持ってたんだろう)不思議に思ったのは一瞬で、湖に向かう事にした。水車を幾つか食べればあの厄介な枝を焼き尽くせると思ったからだ。

 シャオは眉を潜めていた。飛竜の存在の節操のなさは厄介で何度紐付けしてもぶつんぶつんと千切れてしまうのだ。お陰で森を急襲する飛竜を見付けるのが遅れた。爆縮の際のリセットルーチンさえ阻害出来れば良いと思っていた。その為の魔石は司令に持たせた。
 しかし、それで足りるのだろうか。勇者が融合した事で時空への関与能力がいやました様でもある。無数の微細な光点の浮かぶ漆黒の闇の中で揺蕩いながら、シャオは更に思考する。森人の[戦艦]を鍵にしよう。
(しーきゅーしーきゅー、はろーはろー、森人さん応答せよ)

 飛竜に襲われたのはテイコク崩壊の後もなんとか勢力を保っていた湖水軍であった。そのため、その報は王国空軍には届いていない。
 湖水軍を襲ったのは勇者の記憶によるもので、高性能水車がまだ保持されていると判断したからだ。しかし、そこに在ったのは神樹=ユグドラシルに依って書き換えられた物ばかりであった。
 怒り狂った飛竜=勇者は艦隊を焼き尽くし、艦船用の水車を食らった。(あれ?高性能でなくてもいけるじゃん)水車は魔素の塊である。補充するだけなら却って都合が良い。それなら、今もっとも水車の集まっている所、王国首都に向かおう。
 王国水軍の動向を勇者は知らず、水軍も飛竜を感知していなかったのは、後に湖上の水運が復旧する際の助けになった。

 「ネーネヤシガ!」「ネーネヤシガ!」飛竜を撃退した森人達が口々に唱えるチャント。
 これは知ってるぞ、巫女様万歳とかそんな感じだろ?
 通訳嬢曰く「半分正解」後の半分は?
 しかし、答えを聴く前に「ミコサマ、よぶ、くる」森人の若者が俺の腕ひっ掴んで引っ張る。通訳の女冒険者は役目は終わったとばかりとことこと歩き出す。
 通訳さんどこ行くの。これって、意味不明地獄のパターンだよね。君居ないと…。えと、いきなり景色変わったけど結界の内部だよね?いいの?人族いれちゃって。
「イラセタモリヨー」なんか偉いさんぽい人が丁寧におじぎして、大きな門を潜れと促す。この方向って神樹の方向だよね。
 門に入るとまたもや別世界だった。
 

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