水車 第一章 第8話
死ぬかと思った。いや、まじで。相手は[召還されし者]、鼻息で王国吹き飛ばすようなチートな勇者様だし。荒れ狂って部屋の中ひっくり返して飛び出ていった。
俺は壁に張り付いて難を逃れた、と思いきや衛兵が入ってきて逮捕された。俺なんもしてないっす。あ、言葉通じないや。
三日程放置されてから釈放された。て言うか、拘禁が軟禁に変わっただけだけどね。今度は少し、格の落ちる部屋が軟禁場所だった。
「お帰しします」被召還者改め勇者様は取り乱した事を詫びに来てそう言った。へ?急にまたなんで?俺空軍司令、偉いさんだよ?一応。捕虜にしておいた方がお得じゃないの?
「戦争する意味無くなったんで」和平の申し入れだった。
勇者は隣国軍の中で結構な位置にいるらしく、この作戦も彼の立案だったようだ。目的は神樹の確保と森人=エルフの懐柔。
動機は、恐らく帰還方法の模索だろう。首脳陣のはなんだろうか。
「エルフとは呼ばないほうがいいぞ」あれは、自分達を卑下して言う謙譲語と言う奴で、小さいとか下らないとかの意味があった筈だ。本人目の前にして「エルフ」と呼んだ日にゃ百年は憎まれる。寿命長いからね。
元へ。
羽気球が大被害を受けて事情が変わった。まさか現地人が「ジェット機を開発するなんて思わないじゃないですか」噴進機の事かな。
王国に[被]召還者がいる。そう思ったらしい。森の確保が困難になった事もあり、開発者と思しき[被]召還者を捕らえる事にした。
「でも、もう良いんで」紙をぴらぴらさせてサインしろと言う。和平の予備交渉をした事にするらしい。
こいつぁやべーな。親の仇どころか、自分の存在意義、拠り所、であった筈の故郷世界を隣国=テイコクに破壊されただろうと言うのに、離反の気配もない。
壊れちまったか?それとも……。
とまれ、今回の事で勇者の立場は大分弱くなるだろう。もし予想通りなら逆に補強しなければならない。手っ取り早く補強するのに必要なのは戦場だ。十分な武功をあげられるとしたら、王国しかないんじゃないか?多分、空軍の再編をすませ次第、和平破棄、今度は本格的に攻めてくる。
十日程経って、軍府に帰還した。
「疑われている」そりゃそうだろうさ、あっさり捕まった挙げ句これまたあっさり紙切れ一枚持って帰ってきたんだからな。
これで誰も間諜を疑わないとしたら、国を預かる集団としてどうなのってなる。だがそんなこた、どうでも良い。
今は大車輪で空軍を整備しないといかんのよ。まじで。
だからそこんとこよろしこ to 長官。後顧の憂いは手紙一枚で振り払う。俺まじ有能。
ちなみに、手紙本文は普通に丁寧語です。
「だから、これは変」「こっちはこうじゃねえのか」シャオと工廠長が俺の描いた下手くそな敵水上飛空艇のラフを持って質問に来た。てより、ダメ出し?
水車噴進発動機の説明の途中でシャオが固まった。
「かつる!!」意味不明に叫ぶと突然飛び出していった。「魚と鳥の合成魔獣がなんだって?」「揚げ物の類いじゃねえか?司令」気が抜けたので建艦の進捗状況やら、飛空艦用の投射機がどうなってるか、雑談した。雑談と違う?図面も無しなら雑談だろ?空軍じゃそうだぞ。
「ありゃ、一から作りなおさにゃ使えねえな」とは投射機の事、蒸気圧が足りないと。「長官が面白い物持ってきた」有望な武器らしい。後で見せてくれると言う。
艦については、真空圧縮式に順次改装中、五番艦以降は図面を起こしてまるで別物になるようだ。
真空圧縮型気球=飛空艇はもうすぐ組上がるらしい。
射手が足りないな森人うちにこないかな。