水車ダンマス編 第6話
106 1水軍との合流 2神樹の意図 3ハーレム事情 4ガオッケンの挑戦 5椄敵 6次話からクライマックス
二十両程度の戦車では流石に破竹の勢いとまではいかない。突破するべき敵防衛線もなぜか無く連合軍は王都に引き籠っている。電撃戦の必要はない、それでも十分な速度での進軍ではあった。
空軍からは二隻の強襲艦が帯同している。もっとも乗っているのは精強な陸戦隊ではなく飛空挺の整備技士と整備機材、補給物資、空中指揮要員である。機首が巨大な鮫のように大きく口を開ける仕様になっており、そこから資材の出し入れをするのだが、驚く無かれ空中にて飛空挺の収納も可能なのである。かくて空軍は前線の直ぐ後方で簡単な修理、補給の可能な空中工廠を持つに至った。
「四時飛空挺、水軍機と思われます」
強襲艦の見張り員が報告した。双眼鏡を向けると数は十二機程、一個中隊だろう。整然と編隊を組み練度の高さが伺える。
艦長は指示を出す。
「機首搬入口開け、お客さんだぞ」
掌板長は口笛を吹いた。
「こいつぁすげーぜ」
強襲艦は着艦を容易にするために静止している。その手前に接近した水軍機は両翼を消し去り、残った桁をくるりと胴体に沿わせると、すんなりと入艦してくる。
「この細さなら四倍は詰め込めるぜ」
十分程で一個中隊十二機の収容が終わった。
工廠添え付けの食堂で昼食を突ついているとシャオがトレイを持ってやってきた。
「司令、ここ良い?」
持っていたフォークで向かいの席を指す。
「神樹の意図が判った」席に着くなりそう切り出す。
それで?
「神樹=レコードは神を創り出そうとしている」
いや、話でかすぎて反応できんのだけど。一応聞くぞ、それ空軍と関係あるのか?
頷くシャオ
「歪なダンジョンと有効な関係を結べれば、有意なサポートを受けられる可能性が高い」
それって新樹が戦争に介入してくるって事か?
「それも有り得る」
なんか、よく分からん、保留だな。
「でもさぁ」虎治は不満を訴える。
「俺の嫁達、無表情過ぎない?普通あのくらいの年頃て二三にん集まるときゃーきゃー煩いじゃん、それが…」
「煩いのがお好きですか?」
「そうじゃなくて…」
「ヤンデレ化その他の不具合防止のため感情の起伏に大きな制限を掛けてあります」
「それやめようよ、普通の女の子が良い」
「現在呼称ハーレムの構成嫁の人員は十四名です。感情制御をデフォルトに戻した場合半年以内のハーレム崩壊率は97%」
「まじ?」
「なので、この件に付きましては拒否権を発動させて貰います」
「拒否権って有ったんだ」
「今創りました」
一団の二百名ほどの兵士が森の東側を森人の領域を避けるように進んでいる。元王国騎士団副団長ガオッケンの奇襲部隊だ。空軍は地上では弱兵だ、ガオッケンはそう考えていた。なので隠密裏に進軍できるギリギリの兵で足りる。それ故の二百名だ。そして、勇者様が再再度のエルフの森への侵攻を完遂するために用意してきた魔石もある。従兵の大きな背嚢に納められている。
この魔石から各々の兵の持つアミュレットに紐付けると、各員で隠蔽を見破れるようになる。のみならず、物陰に潜んだ隠蔽魔法も感知できるのだ。尤も、エルフの事だから直ぐに気が付いて魔法無しでの隠密に切り替えるだろう。多少有利にはなる、その程度の物だ。が兵達はそうは思っていなかった。
森人の隠蔽魔法が優れているのは、なにも森人だからと言うだけではない。森人の特に斥候は老師達の手練手管の隠蔽破りの魔法に耐えて漸く一人前を名乗れるのだ。その嫌らしく不快極まる試練を耐えてきたばかりの若人が立ち竦んでいた。
(これは隠蔽破りだ。老師達のものと気配も匂いも違うが、遥かに強い)
しかし魔法に頼るだけがエルフではない。迷彩柄の戦装束を頼みに葉陰からそっと覗き見る。敵の集団だ!ここから確認できるだけでも五十人はいる。要報告、風の起こす葉擦れの音に合わせて離脱しようとした時、誰かに見られている事に気が付いた。
ひとりの兵が弩を構えていた。
「隊長やりましたぜ」
連合軍から借りた兵が誇らしげに報告した。エルフの斥候を射殺したと。ガオッケンは思う、あぁこいつらはエルフの恐さを知らないのか。
「無駄な戦闘は避けろと命令した筈だ」
「隠蔽サーチで見てもこの辺りにはこいつしかいませんぜ」
「エルフは仲間が死ぬと分かるんだ、一時間もしない内にこの辺りはエルフだらけになるぞ」
作戦は失敗だ、撤退するしかないか。だが森を抜けるまでにエルフに追い付かれるだろう、何人生きて帰れるやら。そう覚悟を決めたところに、斥候に出していた兵が帰ってきた。
「右手前方にダンジョンがあります」