水車ダンマス編 第7話

107 1連合軍ダンジョンへ 2避退 3騎兵隊出撃 4グル師走る 5漸進のダンジョン 6

 湯石ダンジョンだ、ガオッケンはそう思った。あまり知られてないが、水車の元となる湯石はダンジョンで採れる、とガオッケンは勇者に教えて貰った。聞けば湯石の一番の生産地であるドワーフの坑洞も奥にダンジョンを抱えているらしい。そして、エルフの経済を支えているのも湯石だ。このダンジョンから採掘しているに違いない。
「ダンジョンに潜るぞ」戸惑う兵士達。
「中に防衛陣地を作る。森の中では防ぎきれん」
 思惑はそれだけではない。ダンジョンの管理をしている者がいる筈だ。恐らく地位も低くはない、その者を人質に取れれば無傷で撤収する事が出来るかもしれない。冒険者達が言うように無限にお宝や食糧を産み出すダンジョンコアがあれば長期間の籠城も出来るだろうが、そこまでは考えない。ヨタ話の類いだろうからだ。
 洞穴の入り口は十人程が横並びで入れるぐらいに広かった。ただの洞窟に見えるが、成る程ダンジョンだ、隠蔽魔法が掛かっていて本来は隠されている筈だったろう。
 百名程残し、入り口の防衛に当たらせる。人数が多いのはその辺の木を切って掩体を組めということだ。あとの百人で奥に進む。時折木の枝を粘土で継ぎ合わせた様なゴーレムが襲ってきて、やはりエルフのダンジョンだと確信を深める。野蛮人らしい雑な作りのゴーレムだった。
「マスター、嫁達及び非戦闘人形の送還を進言します」
「なんで?」
「敵の侵入です。戦力から言って程なく、マスター言うところのコアルームまで達するでしょう」
 虎治は慌てた。死に戻りのギフトがあるとは聞いている。だが、戻るのは此処、コアルームなのだ。
「駄目じゃん、全員前に出して徹底抗戦させようよ」
「アルファ雄はハーレムを護るために命を掛けるものです、雌を盾にする等、風上にも置けません」
「だって俺死んじゃうじゃん」
「……今、ユグダのダンジョンマスターに了解を得ました。死に戻りポイントをユグダに変更」

 時折、入り口から遠話が入る。何度かエルフの襲撃を撃退したらしい。
「隊長の言う通りでしたよ」
 隠蔽魔法を使わずに至近まで接近されたと言う。予めそうもあろうと聞いてなければ奇襲を許したかもしれない。射角を得ようと洞窟から出た者が二人戦死した。掩体の内側であった事から気球から射たれたのだと思われたが隠蔽破りが効いていないようで、発見できなかった。
「気球に大出力の魔石を積んであるんだろう、何人倒した」
「…いえ、…ひとりも」
 怒鳴り付けようとして、ガオッケンは直ぐに思い当たる。ボルトを回収してなかった。この短時間でもう対抗魔法の付与をしたか。
「鏃の付与は四種類以上で回せ、エルフの対抗付与は三以上設定出来る」
 おそらくは、もっとだ。了解と短く返事をして遠話は切れた。
 マスターは役に立たない、これは始めから想定していた事だ。なので送還と手作りに拘っていた何種類かの[人形]を吸収させて貰うと、コアはマスターの首を刎ねた。速やかに死に戻って貰う為である。次いでアーカイブに自身のバックアップを録ると逐次追加モードにする。出来るだけ情報を[持ち帰り]しなければならない。その傍ら、人形を量産する、量産する、量産する。時間稼ぎにしかならないように見えて仔細なデータを集められれば、それだけ正確な戦力の分析が出きる。人形は形を成すと逐次前線たる上階へと進む。
 結節点からシグナルが来た。ダンジョンマスターの不在に怯えているようだ。結節点に知能と呼べるものはない。故に説明も説得も出来ない。あやすような信号を送って宥めるが、いつまでも持たないだろう。暴走したとして何れくらいの被害が出るのだろうか。
 このコアの心配している被害とは情報の損失の事で、本来は有る意味絶対的な上位存在である情報子が消滅することを指す。これは魔素による干渉が極めて困難になると言うことであり、魔法による存在を否定する。

 サルー司令は陸戦隊に動員を発した。
「あー、諸君連合軍は講和を打診しておきながら卑劣にも我が同盟たるダンジョンに攻めいった」
 自分で言ってなんだけど、どこが卑劣なんだろうね、普通にまだ戦争中だし。
「んでだ、かわいいねーちゃん達を助けにいくよー」
 うん、士気は万全だ。
 最初にシャオから次いで森人の族長からダンジョンの急を告げられた。ダンジョンマスターは既に森に避難して来ていて、コア、あの喋る黒い球体だな、が防衛の指揮を取っているらしい。
 マスターになんで一人で?と訊いてみたが、「だって、えぐ、くび、えぐえぐ、きられて、えぐ」えぐえぐ泣くばかりで、さっぱり要領を得ない。
 シャオにダンジョンに転移出来ないかときいたら、
「歪さがさらに増してて危険」
 マスターの転移は特殊らしく解析の目処も立たないそうだ。しゃーない、歩いていくか。
 陸戦隊を召集した。
 ずっと後になって知ったのだが、[かわいーねーちゃん達]真っ先に避難させたのだそうだ。どうやって森に入ったんだ?

 王都から連合軍が逃げ出し始めているらしい。共和国軍を恐れてと言うわけでもなく、なぜか連合軍兵士にだけ掛かる疫病が流行っているらしい。
「天罰だ!」
 そう叫ぶ市民をいつまで押さえておけるのか、もう講和も掃討もない、そんな状況らしい。空軍と水軍航空隊は交代で王都上空を示威飛行するのが日課になった。市民が歓声を上げて手を振ると翼を振って応える。共和国軍の到着はまだまだ先だが、もう戦の結果は見えていた。
 その中でせめて名伯楽を得ようと逃走の姿勢を保ちながら残っている小国があった。キーナン公国という。名伯楽とは、王国空軍技官シャオ・ハイマオを育てたと見なされているグル師の事である。協会長を辞任し、協会も脱会したと言うなら、何某しかの徒ならぬ経緯を予想しても良さそうなのだが、早く逃げ出したいとの焦りも有って頓着しない。
 足を運ぶ事数度、グル師も元はと言えばただの学者馬鹿、三顧の礼に感動の上逃避行に同道する事と相成った。後にキーナンは魔導大国と呼ばれる程に魔法の隆盛を見るのだが、シャオの事で味噌を付けたとは言えグル師も協会長を勤めただけあり一流の魔法教育の大家で有ったようだ。

 「くそっ!キリがねーぜ」
 四つ足や二本足、稀に六本足のゴーレムがワラワラと湧いてくる。話しに聴くような安全地帯為る物は此処にはないらしく、ひっきりなしの戦闘になっていた。
「交代で休め」
 二十人ずつ五つの班に別けて十分で交代させた。これなら、四十分休める。忙しない様だが相手が休んだり様子見をしたりしないのだ。全力で動き続ける必要があり、十分とはほぼ限界なのだ。
 陣は縦長に為る。最後尾の休憩を終えた班が前線に移動し交代し戦線を押し上げる、交代した班は少し下がりそこで休憩に入る。目の前でギャンギャンギャリンと白兵戦でいつ抜かれるか気が気でないが十分もすれば前線はさらに上がる。多少は休んだ気になれるだろう。
 その内細切れな休憩にも関わらず仮眠を取る豪の者も表れた。

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