台風の日の朝焼け
深夜の地震は、眠気の中で聞いた。
夢と混濁していて、身体が動かない。
意識の片隅で「地震だ、大きいぞ」という声がする。
揺れ続けているけれど一方で睡魔が「大丈夫だろう」と覚醒を妨げ、しばらくたって揺れが治まると、ほらね、と、安心してまた気絶していく。
ときには「これは大きいぞ、いつもと違う揺れだ」という時もあるけれど、大概はやり過ごし、朝を迎える。するとケロッとしていて、家族に「昨晩の地震大きかったね」などと言われると、あぁそういえば地震あったな、とその時になって思い出したりする。逆も然りで、家族に
「昨晩の地震大きかったね」
「エッ地震なんてあった?気がつかないぐらいぐっすり寝てたよ、大きかった?」
「大きかったよ」
「全然気がつかなかった」
「もう、いざとなったらやばいじゃん」
などど会話を交わして、またいつもの他愛ない日常を送ったりする。
あの時までは。
なんて事が今のところないから、なんとかなっている。
寝苦しい夜で、家族中が涼を求めて布団の上をごろごろしたのだろう、朝方に目が覚めると、家族が全員、布団に対して90度横になって、てんでバラバラの位置に寝ている。胸の膨らみで、全員が呼吸しているのを、今朝も生きているかを、目視で確認する。
妙に空が赤い。
朝焼けが部屋の中まで入り込んで、室内の空気を染めている。
そうだ、台風が近づいているのだ。何日も前から気象庁が警報を発していたような、日本列島を縦断する大型の台風だ。いよいよ近づいてきたのだ。だから朝から空がこんなにも赤いのか。そうだ、そういえば昨夜は深夜に地震があったんだった。
地震や台風を日常の事として、今のところ。
なんとか事なきを得ていて、それなりに日々を懊悩しながら暮らしている。
きっと災害に見舞われたら自分の悩みを優先してる場合じゃないから。
自意識に苛まれるのも贅沢。脳のバグ。
なんて、自らを説得しながら、今日も1日が始まる。
<了>