STATEMENT

 今の僕の生活は受動的だ。誰かが作った音楽を聴き、誰かが作った料理を食べ、目の前に提供されるものに対して良い悪い、美味い不味いと言いながら暮らしている。自分ではない誰かが作った生産物に対してリアクションをしているだけの受動的な生活。能動的なようで受動的な生活。

 若かったあの頃はいつの間にか過ぎ去り、気付けば周りは皆、自分の家庭を築き、その手には我が子を抱いている。そんなことをボヤボヤと考えている時、いつの日か買った灰野敬二のCDのタイトルを思い出してハッとした。

 『やらないが できないことに なってゆく』

 自分は正に今この分岐にいるのではないか、直感的にそう感じた。また、それと同時にそのCDを聞いていた当時の自分を思い出した。

 あの頃の僕にとって「ライブ」という存在は本当に日常の一部だった。毎週末どこかのライブハウスへ行くことを楽しみに平日の仕事をやり過ごすような生活を送っていた。だが、時が経つにつれその日常は変化してしまった。
 それはなぜか。当たり前のようにライブに行き続けた結果、ライブハウスで接するもの全てがコピーアンドペーストで作られたもののように思えてきて、あれだけ求めていた非日常感や高揚感というものが全く得られなくなってしまったからだ。同じような音の同じようなアーティストが同じような場所に集うライブにマンネリを感じ、要はそこに何も期待しなくなってしまったのだ。

 今の生活、今の思考、今の境遇。それらを改めて客観視した時、一つの案が浮かんできた。

 「だったら自分で作ればいい」

 それが今回の企画の起源だ。

 2020年1月25日という日の夜が誰かの記憶に深く刻まれるような夜になればそれは本当に喜ばしいことだと思う。けれど、もし、その日の酒に流されて明日には忘れ去られてしまう夜になったとしても僕は構わない。なぜなら、それは今回の企画内容を見れば明らかだろう、この夜が「いつも」のライブとは違うものだということは。

 僕はバンドマンでもなければ、ライブハウスの人間でもない。ごく一般的なリスナーの一人に過ぎない。それでも、この日だけは僕はあなたを待っている。同じような分岐にいるあなたを、予定調和に飽き飽きして刺激を感じなくなってしまったあなたを。この企画に集ってくれた僕が最高と信じてやまないアーティストと共に。

主催 田中智大

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