わたしのオススメ本 原泰久 作漫画「キングダム」

今回ご紹介するのは、いつもの本ではなく、なんと漫画です!現在も週刊ヤングジャンプで連載が続いていて、コミックはすでに累計6600万部を売り上げる国民的漫画「キングダム」をご紹介します。


キングダムが描くのは、紀元前3世紀の中国は春秋戦国時代。あの三国志の時代より更に昔、日本ではまだ卑弥呼が誕生すらしていない時代です。主人公は天下の大将軍を目指す少年「信」と、後に500年続いた戦乱を治めた秦の始皇帝となる「エイ政」。2人が中華を制する戦争の中で多くの敵と味方に出会い、苦難を乗り越えながら成長していくビルドゥングスロマン(少年の成長を描いた物語)です。主人公の2人はもちろん、信と共に活躍する同年代の王賁(オウホン)、蒙恬(モウテン)を始め味方にも敵にも魅力的なキャラクターがこれでもかと登場します。
まず驚くことは、この物語がおおむね実話だということです。実話というのは大袈裟ですが、ストーリーはほぼ中国の歴史書「史記」の記述通りに進んでいきます。この時代の歴史が驚くほど詳細に残っている中国という国の歴史文化の奥深さに驚きますが、漢文だらけの歴史書から、これほど生き生きとしたキャラクターを生み出す原先生のセンスにはさらに驚かされます。
描かれるストーリーは、単なる戦いだけでなく、身分制度、貧富の格差、家族との争い、数万人の兵士を率いる将軍たちの優れたリーダーシップや組織の作り方など、エンターテインメントのの漫画として以外にも、様々なことが学べる優れたビジネス書としても読むことができます。
また、主人公「信」の周りに集まる仲間とのたわいない会話や、カリョウテンやキョウカイといった「信」を取り巻く女性とのちょっとした恋愛要素が、シリアスな戦争のシーンと、その合間のコミカルな場面で、ドラマを盛り上げる要素である「緊張」と「緩和」を物語にもたらします。
自分が改めてキングダムを読み返してみて感じたテーマは、「矛盾」と「継承」です。
7つの国に分かれて戦う当時の中国を、秦国の王である「エイ政」は武力によって統一しようとします。ある敵との論戦で、「暴力での中華統一など勝利する側の夢の押し付けに他ならない。武力統一の現実は、勝った1国と征服された6つの敗北国、略奪と虐殺、悲しみと絶望、怨念が残るだけだ」と強烈な批判をされます。それに対し「エイ政」はこう言います。「人の本質は光である。人が人を殺さなくても済む世の中を作るために自分は戦うんだ」と。「エイ政」の言葉は一見矛盾しているように聞こえます。そこでさらに「エイ政」は、自分は征服者として君臨せず、中華統一後の政治形態は「法治」であることを示します。つまり征服された国の住民も、王である自分ですら法に従うと言うのです。現在で言う「法の下の平等」です。当時としてはとても考えられない概念ですが、議論のレベルを一気に引き上げるそのセリフは、圧倒的な説得力で登場人物たちや読者に感動を与えます。私利私欲を求めることが当然の時代に、それを超えた理想を提示することで矛盾を解消する。これが、理想を見失い、多くの人が閉塞感を感じる現代で、この漫画がヒットした要因の一つではないかと思います。
また、もう一つのテーマだと感じた「継承」ですが、これも物語の中で繰り返し描かれます。主人公の信はまず、「王騎」という大将軍から、人を導く役割である「将軍」とはどうあるべきかを学び、武器である矛を託されます。その後、様々な敵と戦いそれを破っていきますが、その過程でも倒した敵の想いを託されていきます。それぞれが理想や考え方を持ち、ぶつけ合い、敵と味方に分かれ争いながらも、その中でお互いの理想を目指して生きていく。そして、敗れたものは勝者に想いを託し、勝者は敗者の想いを背負って自分の道を進んでいく。倒れた者の思いを継承しながら理想を実現する。どこかに絶対的な悪者がいてそれを倒すという単純なものではなく、現実の社会と同じように、それぞれのキャラクターが自分なりの正義、理想を持ちながらその実現のために時に争う。そんな現代の縮図が描かれていることも、この漫画を単なる漫画で終わらせなかったもう一つの要因だと思います。
まだ未読の方には難しい説明が続いたかもしれませんが、読み始めたら止まらなくなること間違いなし。急いで既刊のコミックを読み終え、ともに熱く語らいましょう。ようこそ、「キングダム」の世界へ!

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