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スポーツクラブの特殊性、経営課題、経営者に求められることとは
以前のnoteにも記載しましたが、スポーツ界で自分がどんな価値を提供できるのだろうと考えると、結局は「なぜそのスポーツが必要なのか」にたどり着きます。
「スポーツ(ぼくの場合は100%野球ですが)が好きだからスポーツ業界に入って、そこで活躍したい」という気持ちがありますが、それはぼくがしたいことにすぎません。
本当に社会はスポーツを求めているのか、それを商品としている側は常に問い続ける必要があります。
ちょうど、現在受講しているSHCで「スポーツクラブの特殊性、経営課題、経営者に求められることはなにか」というテーマの課題があり、現時点で考えていることを整理しました。
スポーツクラブの特殊性とは
千葉ジェッツの島田代表がこんなことを言っています。
スポーツビジネスが注目されてるけど単なる商いです。スポーツビジネスとあえて特殊産業のように難しくすることで潤う評論家的な人もたくさんいますが、単なる商いです。お客様が喜び対価を頂く。他の産業となんら変わりません。←ここ大事。この世界を志す者には切に心して欲しいです。
— 島田 慎二 (@SHIMADASHINJI) January 18, 2019
スポーツビジネスと言っても、扱う商品がスポーツというだけで、基本的には顧客にどれだけ価値を提供して、気持ちよくお金を払ってもらえるかどうかです。
ただ、スポーツという商品自体はとても特殊なものだと思っていまして、その特殊性は「不確実性」「商品の多様性」「ステークホルダーが多数存在すること」かなと思います。
1つめ:不確実性
スポーツの最大の商品は試合そのものですが、その試合の価値について事前に判断することができません。そもそも、悪天候や優勝チームが決定した場合のように、商品となる試合が顧客に売ることができない場合もあります。
ファンにとっては、一般的には負けた試合より勝った試合、シーズン終盤に優勝の可能性がなくなったチームの試合より、優勝争いをしているチームの試合のほうが価値が高いのですが、それはチケットを販売する時点では全く判断ができず、試合内容の価値を材料として商品のセールスを行うことができません。
一方、MLBにおける90年代に地区14連覇したブレーブスや、世界的なビッククラブのバルセロナでさえも、タイトルのかからないローカルチームとの試合のように、明らかに勝ちがわかっている場合はファンが興味を持ちません。
このように、不確実性は試合という商品に価値をつけられないという点だけではなく、ファンに緊張感、ワクワク間、高揚感といった感情を抱いてもらい、試合の価値を上げるという側面もあります。
これは一般的な商品、サービスとは決定的に異なる特徴です。美味しいかわからないレストランよりも、一般的には美味しいとわかる店に行きたいはずです。
なので不確実性をクラブがいかにコントロールできるかが重要になります。
2つめ:商品の多様性
同じ試合でも多様な観戦方法があり、それぞれに異なるニーズ、ターゲット、ビジネスモデルがあり、それに合わせて多様なチャネルを用意する必要があります。
ずっと、この点はスポーツの特徴かなと感じていて、noteにも残しています。
観戦方法の一つはスタジアムでの観戦。
ファンがチケットを購入し、直接スタジアムに足を運び、試合を観戦する。この場合、チケット販売やスタジアムに掲載する看板のスポンサー料がクラブにとっての収入になります。
次にテレビ、ラジオでの観戦。
これは試合を放送する権利を商品として、テレビ局、ラジオ局に購入してもらい、それが主な収入となります。スタジアムでの観戦とは異なり、観戦者一人ひとりから料金を徴収するのではなく、試合単位、年単位で金額を設定して、近年では複数年で巨額な契約の発表をよく目にします。
そして、ネットでの観戦。DAZNとかですね。
テレビ、ラジオのように放映権が収入となる場合だけでなく、クラブ自身で配信プラットフォームを持ち、観戦者から試合単位、月単位、年単位で料金を徴収し、収入とする場合もあります。
インターネットを通した配信では観戦者は観戦場所や視聴端末を自由に選ぶことができます。その分、生活の一部となって無意識に電源をつけるテレビとは異なり、インターネットでの視聴はファンが実際に観戦するに至るまでの過程を設計する必要があります。
以前、テレビ局や広告代理店でスポーツコンテンツを扱っていた人が「なぜ、DAZNがテレビでコマーシャルをするのか。なぜ、Googleがテレビでコマーシャルをするのか」という問いについて話していました。要は、ネットで何かをする、というのはテレビに比べるととても意思を持った行動になるんですよね。
なので、スポーツを提供する側は、スタジアムに来てもらうように観戦体験を明確にしなくてはいけません。
このように同じ試合でも、ファンに届ける時には複数の形があることがスポーツの特徴のひとつです。
3つめ:ステークホルダーが多数存在すること
スポーツという商品が影響を与える対象はファンだけではなく、スポンサーや経営者、地域住民、自治体、従業員、選手など様々なステークホルダーが存在します。
例えば冷蔵庫という商品であれば、生鮮食品を低音で保管するためのものであり、それ以上ではありません。このように一般的な商品、サービスはある程度求める役割が決まっています。
一方で、スポーツの場合はステークホルダーによって求めるものが違っており、それぞれのロジックを有しています。
そのため、何かしら意思決定をする上では、彼ら全員の理解を得ることが難しくなります。
これが、国内スポーツ業界では特に既存踏襲、現状維持の文化が根づいているのではないかと考えています。
様々なステークホルダーが存在することで、営利団体のように売上、利益の追求が最上位の目標にならない場合が多く、KPIの設定が難しく、また、経営者、選手、従業員のベクトルを合わせることが難しくなります。
そのため、スポーツクラブにおいてはビジョンやゴール、ミッションなどクラブの存在意義について、どれだけ共通認識化されているかが重要になるのかなと思います。
スポーツクラブの経営課題
島田代表が言うように、スポーツビジネスは他の業界と同じような単なる商いであって、スポーツクラブにおいても当然ビジネス的な課題が多くあります。
特に、スポーツクラブの経営課題として挙げられるものは、「継続的なチーム強化」「スタジアムビジネス」「他のエンターテイメントとの競合」「人材確保」でしょうか。
1つめ:継続的なチーム強化
スポーツクラブはチームが試合に勝ち、所属リーグで優勝するために予算を確保し、選手の育成、強化をしなくてはいけません。
ある年に各選手が活躍しチームの成績が良くても、成績を残した選手はサラリーが上がり、自クラブの財政事情を踏まえて放出が必要になる場合があります。
また、選手は一定の年齢を過ぎるとパフォーマンスが下がるため、代替ができるような若手選手の育成をするなど、一定のスパンでチームの新陳代謝ができるようにしなくてはいけません。
このようにチームの能力は長期的に安定させることが難しく、流動的になります。
ただ、チームの成績はクラブの収入に大きな影響を与えるので、その強化には長期的な視点で継続的かつ戦略的な投資が必要になります。
2つめ:スタジアムビジネス
試合をファンに提供する上での基盤となるスタジアムを自クラブで管理していないケースが多く、単に競技を行うだけの興業になってしまっているように感じます。
その競技に興味が無い、もしくは興味が薄いファンもスタジアムに足を運んでももらうためには、試合以外で楽しめる場を用意する必要があるのですが、クラブで管理していないスタジアムでは自由に施策を行うことができない、もしくは自治体の協力など多様なステークホルダーのマネジメントが必要となります。
また、バスケットにおける体育館、サッカーにおける陸上トラック付き競技場など、多目的利用の会場ではそのスポーツの特徴を活かした演出をすることができず、エンターテイメントとしての非日常感、観客との一体感を生むことが難しくなります。
そのため、スタジアムを中心としたビジネスには常に課題が残っています。
3つめ:他のエンターテイメント
近年は、インターネットの普及で容易に情報が得られることによる嗜好の多様化、核家族化などライフスタイルの変化などがあり、特に他のスポーツだけではなく、ゲーム、映画、旅行などが多くある都心では、他のエンターテイメントが競合相手となります。
スポーツ観戦は試合時間だけではなく、移動時間も含めて多くの時間を使うため、趣味、エンターテイメント、家族との時間に使う時間をどのようにそのスポーツに使ってもらうか、観戦者に対して価値のある体験を提供しなくてはいけません。
4つめ:人材確保
冒頭で記載したように、ビジネス課題を解決するには優秀な人材の確保が必要になります。
ただ、チームの強化やプロモーション等にも費用がかかり、彼らに対して十分な給料を用意することができないのが現状です。
一方で、真に優秀で熱意のある人材は自分自信の力で稼ぐことが可能かなとも思っています。なので、スポーツクラブとしては、彼らにいかにやりがいや成長機会を提供することができるかが重要になるのではないかと考えています。
スポーツクラブの経営者に求められることとは
スポーツクラブの経営者といっても、求められる資質は一般企業の経営者でも同じですし、そもそもすべてのビジネスパーソンでも同じかなと思っています。
英語、会計、ITというビジネススキルもそうなのですが、特に必要なことは「ビジョナリーであること」「突破力」かなと思います。
1つめ:ビジョナリーであること
ステークホルダーが多いスポーツクラブではファン、選手、従業員の足並みを揃え、同じ目標に向かって一体感をもたせることがとても難しいと感じています。さらに、プロスポーツの興業は決して生活に不可欠なものではなく、嗜好的な要素が強くなり、ファン、従業員はいつでもチームから離れていきます。
そのためにはチーム・クラブのビジョン、存在意義について明確にし、それを熱意を持って自身の言葉で表現できなくてはいけません。
そして、これは元スポーツ選手が発信するとかなりの影響力を持つものだと思います。
2つめ:突破力
「スポーツ業界で求められる人材になるには」といったセミナーで、スポーツ界で働かれている方が言うことで圧倒的に多いものが、この「突破力」。要は気合と根性ですか、と当時は冷めていましたが、実際かなり重要だと思っています。
というのも、ファンとなる人々の嗜好の多様化、ライフスタイル変化によってクラブの課題自体も変化しています。また、技術の進歩によってこれまでできなかったことも可能になっています。このような環境の中での現状維持はクラブの衰退を意味していて、常にタイムリーな施策の実現が必要です。
ただ、多様なステークホルダーがいる中では、彼らすべての要望にカスタムすることはでず、意思決定、合意形成は非常に難易度が高く、また多くの時間を費やします。
この時、経営理念に沿って熱意、信念を持ち、自身の考え、意思をどれだけ突き通し、実行することができるか、また、自身のアイディア、提言にどれだけの協力を仰げるか、この突破力は経営者に必要な資質ではないかと考えています。
さて、あくまでも現時点での、スポーツビジネスとはなんぞや、を整理しましたが、もちろんSHCのクラスが終わり、その時にはまたこの問いについて考えてみるつもりです。
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