文箱を整理していたら、一番底から出てきたのが、少女時代につづった作品「未来堂書店/みらいどうしょてん」。絵本か童話で出版できたらなあ・・・と夢見た覚えがあった。なら、いまnoteで発表してみる!?
短いので数分で読めます!(イラストは昔の自作)
未来堂書店
ぼくはある日、あまり親しくはない友だちから、奇妙なことを聞いた。
それは・・本好きのぼくの心をひどくかきたてることだった。
ただの本屋ではない、そう、そこには世界中どこを探したって見つけられるわけもない「未来の本」が置いてあるのだという。
ぼくが毎週読んでいるマンガや推理小説なんかの続きが、待たなくとも、毎日、読める本屋なのだ。
ぼくはその話をきいて、とてもおどろき、常々そんな本屋があればいいなあ・・と思っていた自分の夢が、本当になったようで心がわくわくした。
だが、友だちは声をひそめていった。
「他の誰にもいうなよ。押しかけられちゃ大変だからな」。
ぼくはその日はもうおそかったので、次の日そこへ出かけることにした。朝早くから起き、母さんに「ちょっと行ってくる」といつものように声をかけ家を出た。
ぼくはどんどん歩いた。そこへはとても遠い道のりなので大変だった。友だちに教えられたとおり歩いていくと、海のそばに出た。海岸の岩のよこに小さな階段があった。
そこをどんどんおりて、海面からもどんどんおりていくと、そこは海のなかの遊歩道だった。息は不思議と苦しくはなく、またどんどん歩いていった。
あった! やっとあった。ぼくは、もう、うれしくて無我夢中でその本屋にとびこんだ。看板には「未来堂書店」とか、かいてあったようだ。
さすがに、たくさんの人が入っていた。みんな楽しそうに本を読んでいる。つい、みんなに気をとられていたぼくも、やっと我にかえり、毎週読んでいる推理小説の続きをさがした。
それは簡単にみつかり、ぼくは先週からうずうずしていた気持ちを押さえつけられず、必死で読みはじめた。
ああ・・そうか。じゃあ、こっちのなぞはどうなるんだ?・・思わず読みながらことばがでてきてしまった。
ぼくは、その続きも、そのまた続きも読んだ。おもしろくて、おもしろくて、やめられない、とまらない、気分だった。
夢中で読んでいるうちに、次から次へと本があるので、ぜんぶ読むのがめんどうくさくなった。
ええい!めんどうくさい、とばかりに、本の最後をめくった。
しまった!!、と思ったとたん、友だちのことばを思いだした。
「逆からは読むなよ! いいか、読みきれなければ、また、いけばいいんだ。あせってぜったい逆からだけは読むなよ!」。
おそかった。。。
ぼくは、あせってしまった自分をせめた。
だが、どうにもならないことだと、思い知らされた。
最後のページをめくった、そのしゅんかん、
店のお客は消え、ぼくひとりが、本屋の中にとじこめられてしまった。
ぼくは、いっしゅんにして、ひとりきりになってしまった恐怖におののき、どうにかして、本屋の外に出ようとあらゆる手段をつくした。
が、店のドアはがんとしてひらかず、ぼくは、たったひとり、この広い本屋の中に立ちつくしてしまった。
ぼくにはもうなすすべはなかった、なにひとつなかった。
うなだれて、本屋の中をみまわした。ああ、なんて、たくさんの本があるんだろう! あんなに本が好きだったぼくなのに、そのたくさんの本をみて、ゾッとした。
そのうち少し気をとりなおして、本来の本好きな性格をはっきして、他の週間や月間の楽しみにしている本を読みはじめた。
が、読んでも読んでも、それは限りがなく、どこからあらわれるのか、いつのまにかその続きが山と積まれているのだった・・
ぼくはこうかいした。
それからは、めくったり、こうかいしたりのくりかえしだった。
とうとう、ぼくは、言った。
「やっぱり、ちゃんと待つべきだった」と。
不思議だ。 ぼくは、いま、いつもの道を歩いていた。そして、向こうからやってくるのは、あの友だちだった。
「やあ、いったかい、あの本屋へ?」
「う、ううん」
彼はニッと笑って去っていった。