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#2 歴史を知る ホロコースト

こんにちわ。
今回は「ナチスドイツによるホロコースト」についての記事です。

2024年初め、ある映画のCMに興味が惹かれました。
「関心領域」とタイトルづけられたその映画は、かの悪名高いアウシュビッツ強制収容所の所長とその家族が、強制収容所の真隣で幸せに暮らす姿を描いた作品です。「ああ、そんなのもう、絶対観たら後悔するけど観ないわけにはいかないじゃないの…!」と、強制されているわけでもないのに何かに導かれるようにその映画を観に行きました。

鑑賞後の感想は、まあ一言でいえば「最悪」で、作品の出来は素晴らしいのですが、題材が題材なだけに、もう二度と観なくていいなと、ほうぼうの体で映画館をあとにしました。
しかし、さすがカンヌとアカデミー賞を総なめにした作品であるだけに、鑑賞後の余韻がなかなか引かず、ひいては映画で間接的に扱った、人類史上最も残忍で悲劇的な政策とされる「ユダヤ人ホロコースト」について、いくつか作品に触れたので、今回の記事で紹介していきます。

ホロコースト:第二次世界大戦中にナチス・ドイツがドイツ国内や占領地でユダヤ人などに対して組織的に行った絶滅政策・大量虐殺を指す。当時ヨーロッパにいたユダヤ人の3分の2にあたる約600万人が犠牲となった。

ホロコースト - Wikipedia




関心領域



本作は冒頭に述べたように、アウシュビッツ収容所の所長とその家族の何気ない幸せな日常を描いた作品です。青空が広がるきれいに整えられた庭、子どもたちのはしゃぐ明るい声、任務を終えて帰宅する所長と、出迎える妻。幸せな日々。そこがアウシュビッツ強制収容所の真隣という点を除いては…

鑑賞前、私はこの作品を「アウシュビッツ強制収容所の横で暮らす家族は、その隣で起こっている出来事を、所長である夫以外は何も知らずに過ごしていたが、何かをきっかけにそのおぞましい実態を知ることとなり、逃げ出してしまう」映画だと思っていたのですが、物語はそんな単純なものではありませんでした。
この家族は、アウシュビッツ強制収容所所長の夫、そしてその妻、子どもたちにいたるまで、収容所内で何が起こっているのかを把握した上で、その土地に住み続けているのです。

整えられた立派な家、花に溢れた美しい庭、彼らの暮らす家には昼夜を問わず、ずっと「ある音」が聞こえてきます。それは、収容所内から響き渡る銃声、怒号、悲鳴であり、夜になれば暗い空を照らすほどの真っ赤な炎と煙が建物から立ち上り続けているのです(それはガス室を連想させる)
端から見れば「異常な環境」であっても、その家族たちは、その光景や音を生活の一部として、気にすることもなく生活しているのです。

この映画のタイトルにもなっている「関心領域」とは、第二次世界大戦中にアウシュビッツ強制収容所で働くナチスの人々が暮らすために設けられた収容所の周囲40平方キロメートルのエリアを指したものです。
映画では、所長家族が「関心をもつ領域」と二重の意味がかけられており、自身の幸せな生活以外に「関心」を持つことのない加害者側の心理を、音と映像を使って巧みなまでに表現し、観ている私たちを戦慄させます。

しかし、鑑賞者側も気づくのです。
この作品は他人事ではない と。

現在、私たちの持つ「関心」は、どこまで適用されているでしょうか?
今なお世界中で起こっている戦争はおろか、毎日のように起きている人身事故にさえ興味を持ちません。遠い地域の災害、隣の家の貧困、差別や環境問題も「自分には関係のない出来事」として切り捨てて、自分の目視できる狭い世界の中で生きているのではないでしょうか?


シンドラーのリスト


第二次世界大戦下で迫害を受けていたユダヤ人を、自身の経営する工場に雇い入れることで、強制収容所への収監と虐殺から約1000人の命を救ったドイツ人実業家オスカー・シンドラーにフォーカスした作品です。

オスカー・シンドラーは、無名の状態から起業、女と金、酒を使いドイツ軍に取り入って、琺瑯工場を設立し、軍事用品を生産し販売。戦争特需で大金を稼ぎ、ナチ党員に加わります。
この工場は、そもそもユダヤ人経営者の所有でしたが、ナチスの政策の下、強制移住させられ手放したものを、シンドラーは安く買い取ることができました。これに目を付けたシンドラーは、ユダヤ人を雇用し人件費を安く抑えることで利益を出し、実業家として大成功します。
享楽的で金にしか興味のないシンドラーですが、会計役として雇い入れたユダヤ人イザック・シュターンとの友情、そして日々厳しくなるユダヤ人への迫害を目の当たりにし、それまで労働力としてしか見ていなかったユダヤ人に対する心境が変化していきます。
ナチ党員であり、強制収容所所長と友人関係でもありながら、彼は微力でも個々のユダヤ人を助け、最終的には1000人ものユダヤ人の命を救います。


スティーブン・スピルバーグが手掛けた作品とあって、3時間を超える超大作でありながら、目を離すことなく最後まで鑑賞することができます。
ユダヤ人迫害政策の始まりである、1941年のユダヤ人移住地域(ゲットー)への強制移住から、強制収容所への移送、生活、解放まで描き切っており、当時の政策下におけるユダヤ人の処遇を本作で観ることができます。

当然、直視できない描写も多く鑑賞に気力体力のいる映画ですが、主人公オスカー・シンドラーや会計士イザック・シュターンの人間味も丁寧に表現され、スティーブン・スピルバーグの監督としての手腕を十分に味わうこともできます。

特に最後、自身の工場で雇い入れたユダヤ人たちと、シンドラーが別れる場面。たくさんの人たちに、観てほしいです。



夜と霧 ヴィクトール・E・フランクル


「心理学者、強制収容所を体験する」という原題。身も蓋もなく、それ以上でもそれ以下でもない作品です。
作者であり、心理学者であるヴィクトール・E・フランクルは、少壮の精神医学者として、国内外ともに高い評価を受ける博識の人物でした。しかし、ただ「ユダヤ人である」という理由で、強制収容所に収監されます。
そこでは名前すら剥奪され、個々に与えられた番号のみで管理された異様な世界。そこで起こったことの事実を報告するのではなく、あくまで作者の「体験記」として出版した本作は、今日に至るまでベストセラーとして幾度の改訂を重ねて語り継がれています。

大戦後、すでに長い時を経て、当時を生きた人間はこの世を去り、私たちは過去の過ちを想像で補うことでしか語ることができなくなっています。
その中で、こういった体験者の「経験談」は非常に重要なものであり、さらに心理学者として観察力に長けた作者は、ホロコースト・ユダヤ・ナチスという枠組みを超えて「人間とはなにか」「生きるとは、死ぬとはなにか」を、作中で常に問い続けています。

歴史という枠ではなく、心理学として、哲学として、本作は今も生きる私たちに必要な何かを伝えてくれます。ぜひ読んでみてください。


「関心を持つ」ということから始める


この一連の作品を観る/読むきっかけとなったのは、「関心領域」を手掛けたジョナサン・グレイザー監督がアカデミー国際長編映画賞受賞時に述べたスピーチでした。

私たちの選択はすべて、現在の私たちを映し出し、私たちと向き合うためのものだった。昔の人たちが当時何をしたか見てくれというのではなく、今の自分たちが今何をするか、見るよう求めるものだ

アカデミー国際長編映画賞「関心領域」の英監督、ガザでの戦争について声明 受賞スピーチで - BBCニュース

スピーチでは、ガザ地区の戦況にも触れ「人間性の喪失が最悪の場合にどんな事態を招くか」(アカデミー国際長編映画賞「関心領域」の英監督、ガザでの戦争について声明 受賞スピーチで - BBCニュース)について、過去から学び取り、現在の選択に活かすべきであると述べました。

人間性の喪失には、「関心領域」で描かれたような「他者に対する無関心」も含まれます。ならば、まずは自分の生活圏内の外に目を向け、そこで何が起こっているのか、問題は何なのか、その要因は何なのかに向き合うことが、問題を山ほど抱える現状を改善に向かわせる第1歩ではないかと思います。

まずは、関心を持ち、そして知る。一人ひとりが自覚し、関心の領域を広げていくことが、シンドラーの成し遂げたような偉業に繋がっていくのではないでしょうか。

ホロコーストに関する作品は数多くあるので、この先も気になったものから触れていきたいと思います。が、やはり向き合うのには気力体力を要するものが非常に多い…!

今回紹介した作品は、作品としての質も非常に高いので、気になる方はぜひみてくださいね。

読んでいただきありがとうございました。


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