今日のジャズ: 3月21-22日、1983年(祝40周年)@ハリウッド
Mar. 21-22, 1983 “Come Love”
By Ella Fitzgerald & Joe Pass
At Group IV Recording Studios
In Hollywood, CA for Pablo (Speak Love)
ボーカルとギターのデュオのスタイルは、この二人が起点となって普及していく。その仕掛け人は、ヴァーヴとパブロレーベルを立ち上げた大物プロデューサーのノーマングランツ。このコンビは好評を博して本作でアルバムは三作目。
ジョーパスほど、女性ボーカリストに好まれたギタリストはいない。それは、巧みなテクニックだけでは無く、自ら何枚も作成したソロ演奏に裏打ちされているコードと旋律を織り交ぜたバランスの良さ、穏やかなセンス抜群の洗練されたスタイルと、何よりも歌手に寄り添う傾聴力と伴奏力があってのもの。
パスはエラのみならず、サラヴォーン、11月に登場予定のカーメンマクレエといった女性ボーカルと名盤を遺している。
この曲でもパスによる、ベースラインとコードを分離させて個別に奏でる巧みな職人芸が堪能できる。相当なテクニシャンではあるが、見せびらかすような独りよがりの演奏はせず、伴奏に徹底した大人な演奏が信頼される証。
白人ではありながらブルースをこよなく愛するパスの、押しては引く波のようにターンアラウンドするブルース心溢れるギターとエラの絡みが本曲の聴きどころ。
ブロードウェイミュージカル向けに作詞作曲されてスタンダード化した本曲は、特に女性ボーカリストに取り上げられており、エラ以外にも、先に登場したサラヴォーンやカーメンマクレエを始め、意外なところではロック寄りのジョニミッチェルやリッキーリージョーンズも取り上げている。シンプルなメロディーなだけに、ボーカリストの個性を発揮しやすい曲とも言える。
録音はパブロレーベルで大物ジャズミュージシャンの組み合わせセッション的なアルバムを多数収録したハリウッドにあるGroup IVのスタジオ。本作品は生音に忠実で精度が高く、エラの発声、口の動きのみならず、存在感を含めた身体の動きが空気感から伝わってくれば、オーディオとしては御の字。
このデュオのスタイルを引き継いで現在も進化させているのが、同じく黒人ボーカルと白人ギターの仲良し夫婦デュオで現役のタックアンドパティ。最後の2:37からの下降するパスによるバッキングメロディーのくだりは、彼らの常用句となっており、元祖の二人に敬意を評しているかのよう。
アルバムクレジットに記載ある通り、この演奏でパスは日本ブランドのIbanezのギターを手にしている。パスを始めとして同社のギターをジョージベンソン、パットメセニーやジョンスコフィールドといったジャズ界を代表するギタリストが愛用していき、ヤマハを筆頭とする日本の楽器メーカーの存在感を示して行く。音もさることながら、写真で分かるように楽器の見た目も美しい。
アイバニーズのフルアコースティックギターについての詳細記事を発見しましたので、ご興味のある方は、こちらをご覧ください。読むと手に取ってみたくなります。
本作は、アナログテープからデジタルリマスタリングされている。手掛けたのは名エンジニアのジョータランティーノ。ちょうどこの前年にCDが商用化、発売され、その普及と共に音源のデジタル化が進み、リマスタリングの需要が拡大した。ブルーノートでは名物録音技術のルディヴァンゲルダーが自らのアナログ録音をデジタルリマスタリングしたが(RVG Remasters Series)、タランティーノは、Riversideレーベルのビルエバンス”Waltz for Debby”や、1月19日に紹介したコンテンポラリーの”Art Pepper Meets the Rythem Section”といった名盤のリマスタリングを多数手掛けた。アナログとデジタルの橋渡しとして重要な役割を果たした。
こちらが本曲のジョニミッチェル版。ハービーハンコックやピーターアースキンといった大物ミュージシャンが加わった、かなりジャズ色の濃い演奏。ジョニのメロディーの崩し方や拳の回し方は、本作のエラを始めとする黒人シンガーを意識しているように感じられる。
締め括りにボーカルギターデュオの進化系、タックアンドパティによる息の合った、おしどり夫婦のステージの映像をご覧ください。歌もギターのテクニックも凄いが、エラとパス同様に音楽を聴かせる為にパフォーマンスしているので、それをひけらかす事なく、サラッとやってのけて、その演奏が直球のように心に刺さる。また来日したらぜひ観に行きたい。
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