OKRとは何であって何でないのか
いまや多くの企業に導入されている目標管理手法「OKR」ですが、なかにはOKRとは何なのかよく分からないまま運用している方も多いのではないでしょうか?あるいは、「自社のOKR運用は何か違うけどこのままでいいの?」と不安に感じている方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、「OKRとは何のためか」「OKRとは何であって何でないのか」を整理してみます。特に、「何でないのか」を明らかにすることで、「何か違うOKR」の問題点が明らかになるはずです。
なお本記事ではクリスティーナ・ウォドキー著の『OKR』を参考にしており、記事内でも引用しています。
以下の本文中ではObjectivesのことを「O」、Key Resultsのことを「KR」と呼称しますのでご承知おきください。
OKRとは何のためのものか
OKRとは何であって何でないかを語る前に、OKRとは"何のためのものか"を確認しましょう。MBOなど他の目標管理手法があるなかで、なぜわざわざOKRを採用するのか、と言い換えてもかまいません。
OKRとは何のためのものか。それは、難易度の高い目標を達成するためのものです。ふつうの目標ではありません、難易度の高い目標です。ふつうにやっていては達成し得ない、達成難易度の高い目標を達成するための手法がOKRなのです。
OKRを語るときに合わせて紹介される以下の要素はすべて、「難易度の高い目標を達成するため」のものです。
頑張ればギリギリ達成できる目標を設定する
組織・チーム・個人のOKRを連動させる
KRは測定可能な指標を設定する
KRは少数に絞る
月曜にチェックインし金曜にWinセッションを行う
OKRは難易度の高い目標を達成することに特化した手法である。このことを念頭に、OKRとは何でないのかをみていきましょう。
OKRとは何でないのか
それでは、OKRとは何でないのかをみていきましょう。やってしまいがちなOKRのまずい運用例をいくつか紹介します。
前述したとおり、OKRは難易度の高い目標を達成することに特化した手法であることを念頭において以下をお読みください。
OKRは簡単な目標を設定するものではない
ひとつめのやってしまいがちな運用は、ふつうにやっていれば達成できる簡単な目標を設定してしまうことです。言葉にすると当たり前ですが、高い目標を立てない限り高い目標の達成はあり得ませんから、簡単な目標設定はまさにOKRではない、と言えるでしょう。
書籍『OKR』でも以下の記述があります。
同書によれば、難しいけれど不可能ではないレベル感の目標設定は人を鼓舞させます。ちょうどいい塩梅でストレッチした目標設定によってメンバーを鼓舞することが、高い目標の達成には不可欠なわけです。
OKRはタスクリストではない
次にやってしまいがちなのがKRをタスクリストにしてしまうことです。本来は「これらを満たせばOを達成したといえる」ものをKRに設定すべきであって、「これらを行えばOが達成するはず」というタスクリストを設定してはいけません。
KRにタスクを設定したくなる気持ちは分かりますが、「これらを満たせばOを達成したといえる」と「これらを行えばOが達成するはず」ではまったく意味が異なります。
ダイエットを例に挙げてみましょう。Oは「健康的な身体になって人生に自信を持つ」にしましょうか。この場合のKRは以下が考えられます。
上記のKR①と②を達成すれば、Oが達成したといえる、良いOKRの設定と言えます。しかし、以下のKR設定だといかがでしょうか。
指標ではなくタスクをKRに設定してしまっています。確かに朝食をフルーツにしたり夜22時以降の食事を控えれば健康的な身体に近づきはするでしょうが、イコールではありません。
このKR設定ではお昼にドカ食いしまくって体重と体脂肪率が増加していたとしても、KR①と②を満たしていれば健康的な身体になる目標を達成したことになってしまいます。そんなはずはないのに。
書籍『OKR』でも以下の記述があります。
そうなんです、タスクは毎週変わりますし、KR達成のために毎週変えるべきものなんです。先のダイエットの例でいえば、「先週はお肉を食べ過ぎたから今週は魚料理中心にしよう」「ランニングが続かなったからジムを契約しよう」など、KR達成のためのタスクは常に変わっていきます。
OKRは難易度の高い目標を達成するためのものです。KR達成のために何をすればいいかをメンバー一人ひとりが常に考えるからこそ、高い目標の達成に近づきます。あらかじめ決めたタスクを行うだけで達成できる目標なのであれば、OKRを使う必要はないのです。
OKRは個人評価に結びつけるものではない
つづいてやってしまいがちなのが、OKRの達成度を個人の評価や給与に結びつけてしまうことです。
OKRは難易度の高い目標を達成するための手法であって、個人の評価を行うためのものではありません。
OKRの達成度を個人評価に結びつけることが絶対ダメというわけではありませんが、本来の目的ではない使い方をする以上、弊害は必ず生まれます。
OKRを評価に用いることで、例えば以下を考慮しなければなりません。
目標難易度をそろえないと評価が不公平になるので難易度をそろえる必要がある
低い目標を設定したほうが評価に有利なので低い目標を高く見せようとする力学が働く
期の途中で環境が大きく変わったらそれまでの評価はどうする?
これらは、評価に用いない純正のOKRでは考慮する必要ないことです。また、上記を解決したところで高い目標の達成には寄与しないどころか、邪魔になり得ます。
このように、OKRと評価に結びつけることで上記のような弊害が発生します。OKRを評価に結びつける場合には、OKRが本来持つ高い目標を達成させるパワーが失われることを覚悟しなければなりません。
OKRは期初と期末だけみるものではない
最後に紹介するやってしまいがちな運用は、せっかく設定したOKRを「期初と期末にしかみない」ことです。期初にOKRを設定し、期末にその達成度を測っておわり。そんな運用ではOKR本来の目的である高い目標の達成は成し得ません。
先ほど挙げたダイエットの例でいえば、「半年後にBMI23」というKRを設定しておきながら、半年間いちども体重計に乗らないようなものです。これでは目標達成する可能性は非常に低いでしょう。
高い目標を達成するには目標の進捗を常に意識し、達成するために何をすべきかを日々考える必要があります。書籍『OKR』では、KRの達成度を見える化する・KR達成のためにやることを宣言する(チェックイン)・週末に達成度を確認し賞賛する(Winセッション)、などの手法が紹介されています。
このようにメンバー個人が現在のKR達成度を知り、「達成のために何をすればいいか」を常に考え実行することが高い目標達成の実現に近づけます。OKRの設定だけしておいて日常で意識しない運用では、本来OKRで成したかった高い目標の達成は望めないでしょう。
OKRの本質は個人の自律
OKRとは何でないかを、やってしまいがちな誤った運用例と合わせてみてきました。それではOKRとは何なのか。その本質に迫ってみようと思います。
ここまで繰り返し述べてきたとおり、OKRは通常なし得ない難易度の高い目標を達成するための手法です。そして、高い目標を達成するために以下を行うことが一般的なOKRの運用です。
ここでのポイントは最後の項目「メンバーはKR達成のために何をすればいいかを常に考え、実行する」です。このためにOKRが存在すると言っても過言ではありません。
組織の高い目標を達成するには、メンバー一人ひとりが自律して考え、工夫し、目標達成のために行動することが重要です。
難易度の高い目標ですから、決められたことを決められたとおりに行っていても目標は達成しません。目標達成するために何をすべきかを常に考え、トライ&エラーを繰り返す。そんな自律的な目標達成行動の積み重ねがムーンショットを実現させ得るのです。
OとKRに分けるのも、組織と個人のOKRをリンクさせるのも、測定可能で少数のKRを設定するのも、KRの達成度を見える化するのも、すべてはメンバー一人ひとりを鼓舞し、自律的な目標達成行動を引き出すためであり、これこそがOKRの本質です。
チェックインやOKRボード、Winセッション、1on1など、細かな運用方法は各社ごとにちがってもかまいません。上記で述べた個人の主体的な目標達成行動を引き出すというOKRの本質を忘れなければ、良い運用を行えることと思います。
そもそもOKRの源流であるMBOは Management by Objectives and Self-control の略であり、日本語訳すると「目標と自律によるマネジメント」です(一般には Self-control 部分が無視されて「目標管理制度」と訳されてしまっていますが)。
目標を定めてその達成のために個人が自律的に考え行動することがOKRの源流であるMBOが目指したものであり、OKRもその思想を受け継いでいます。このことを知っておくと、OKRもより精度高く運用できるかもしれませんね。
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