イバン族の食文化 06/11
ある日、イバン族のロングハウスで、朝起きると、ビスケットとコーヒーが用意してあり、二日酔いには丁度よい軽い食事だと思っていた。
その日は、奥地へ行く予定だったので、しっかり目にビスケットを食べて備えたのが失敗だった。
トイレに行って戻ってくると、「ご飯」の朝食がさらにしっかりと用意されていたのだ。その村人もビスケット食べた筈なのに、その完璧な朝食の前に座って、私を待っていた。
そして、「マカイ」(食べるのイバン語)の発声の後、食事を始めた。
私は、どうするべきか迷ったか、その中の一人に手を引っ張られ、大盛りのご飯を食べる羽目になってしまった。
その日は、村人は、昼もしっかりご飯を食べていたが、私は、一粒のご飯を口に持っていって(食事を断わる時の礼儀作法--食事を勧められて、無碍に断わると、ワニに食われて死んでしまうらしい)、丁重に断わった。
ある人の息子は、幼稚園のパーティーで、ご飯が出なくて、焼ビーフンしかなくて、一食分ご飯が食べれなくて泣いたという子供もいるそうで、いろいろ聞いていると、「マカイ」(食べる)と言う言葉、「ニロップ」(飲む)という言葉があるが、「マカイ」は、ご飯を伴うちゃんとした食事で、1日3回食べないといけない。
「ニロップ」は、言葉上では、酒を飲んだり、お茶を飲んだり、飲む事だが、先の朝食前のビスケットや、幼稚園のパーティーの焼ビーフンなどの麺類は、どうも、広義の「ニロップ」に入る様な気がする。
最近では、残念ながら、街中の若い世代のイバン族は、その感覚がなくなりつつある様だが・・・。
その遠い隣人の夫婦の“マイ・ライス”の登場で、我々の晩餐が始まった。
グルメな山菜や山魚のおかずに、豚の角煮の缶詰が加わり、デザートは、木の上で熟したパパイヤを目の前で採って、川で冷やしたもの。
満天の星空の下で、楽しい時間を過ごして、明日の収穫に備えるつもりだった。しかし、つい、昼間の出来事を話してしまった事から、楽しい寛いだ一時の幕が閉じたのだった。
つい、「そういえば、さっき、イノシシがいたから追い払った」という話をしたら、彼の目つきが急に変わって、何かを思い出したかの様に部屋に入り、銃の準備をしだした。
彼は、銃の手入れをしながら、今の時期は、イノシシが多く、更に好条件な事に、例年に無くこの時期に果物が多いと語りだした。
でも、稲を薙倒したりするから、迷惑だ。何となく、脈絡の無い言葉を呟いて、銃身を床に当て、安全装置を外し、“ Let's Rock”と意味不明の言葉を発し、私を一瞬見て、顎をふって、着いて来る様に促した。
クリス夫婦は、何事も無かったように、そそくさと後片付けを終え、足元しか見えない懐中電灯を照らして、その小屋を後にした。そして、私にとって、悪夢の夜が始まるのであった。