反社会的勢力のとらえ方
海棠進『ヤクザと金融機関』(2022年10月、朝日新聞出版)によれば、1990年代から2000年にかけての金融機関の不良債権問題の「隠れた真の要因の一つ」が、反社会的勢力=ヤクザが金融機関の融資に絡み、債権回収を妨害したことにあるという。
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金融業界では、このようなことは再びあってはならないとして、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)のもと、全銀協ベースで、「反社会的勢力介入排除に向けた取組み強化について」とする申合せを2007年7月に公表し、この取組みをコンプライアンス上の重要な課題として位置づけているところであろう。
取組みに当たっては、まず、この「反社会的勢力」をどうとらえるかが重要である。
これについて、金融庁監督指針Ⅱ-3-1-4-1②は、平成23年12月22日付警察庁次長通達「組織犯罪対策要綱」を参照のうえ、「暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目すること」との考え方を示している。
実際の取扱いでは、各銀行が保有する「反社会的勢力データベース」の活用が重要となるが、その基本は、以上の考え方にほかならないことは認識しておく必要があろう。
しかし、これで十分と考えてよいだろうか。
金融庁監督指針は、かなり網羅的なとらえ方をしているように見えるが、そうであっても、これに限定されると考えるのは、ひとつのリスクになることに注意が必要である。
というのは、「反社会的勢力」は、「その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難である」(令和元年12月10日参議院答弁書)からである。
おそらく、各銀行が「反社会的勢力データベース」を構築するに当たって、金融庁監督指針を参考にするが、これに限定することなく、むしろ政府の公式見解と同様の考え方に立つものと思われる。実際どうなっているかは、ことの性質上、外部から知り得ないところであり、議論の俎上にすら上がっていないのが現実であろう。このような次第で、ここでは考え方のみ提示するに止めることとしたい。