~福井を舞台に。福井の若者たちが波及させる「創造的希望」~最終章
5.おわりに
本論文では、コロナ流行前後における福井県民の主観的幸福度に影響を与えた要因を分析した後、福井県内の主観的幸福度を高めていくためには誰が主体となり、地域に何が必要であるのかを福井県出身の大学生で企画・運営しているイベントカフェの実践を例に挙げて検討した。希望に関する研究において、「他人と協力し合うのが得意な人ほど実現見通しのある希望を有する」(玄田・宇野,2009:p.141)こと、「家族、恋人、親戚、職場の同僚以外にも「自分に期待してくれる」「能力や努力を高く評価してくれる」他者を持つ人ほど、実現見通しのある希望を持つ」(玄田・宇野,2009:p.147)ことが分かっている。今回、福井県出身大学生たちが本イベントカフェを開催することができたのは、地元の友人たちとの元々の強いつながりから生まれた協力関係と、クマゴローカフェオーナーとの第三の関係が成立したからである。そして、本イベントカフェが一度限りで終わるのではなく、継続できているのは、主催者、客の固定化と流動化の両立にあると考える。主催者の一部は固定化しながらも、一時的に抜けること、新たな主催者メンバーを受け入れる流動化が「創造的希望」を育む主体を地域に増やし、主催者同士の新たな協力関係を育む余地を常に開放する。客の固定化においては、常連客の存在が、主催者たちに安心感と開催へのモチベーションを与えてくれる、まさに応援団のような存在となる。そして、同じ空間で数回顔を合わせるうちに、主催者と客との間に新たな第三の関係、もしくは協力関係が自然と生まれてくる。一方で、客の流動化とは、たまたま店の前を通りかかった県内外の客をも呼び込むことである。同じ空間で、「共に時間を過ごし、同じような飲み物を飲んでいるという、たったそれだけのことではあるが、それだけでカフェに集う人たちの間には独特の連帯感が生まれてくる」(飯田,2020:pp.96-97)。こうしたカフェの特徴を持つ「秘密基地Mahalo」は、主催者、常連客、流動客の思いがけない出会いを生み出すことで、「自我と社会」を繋ぐ役割を果たしていると言えるのではないだろうか。こうした「多種多様な「小さな活動」が連続的に発生」(杉本,2021:p.58)し、県内外の人々による「関心と愛情」が集まる地域にこそ、「創造的希望」は紡がれてゆくのである。
参考文献
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参考URL
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https://europepmc.org/backend/ptpmcrender.fcgi?accid=PMC9169417&blobtype=pdf
これにて卒論終了です!!
長い長い卒論公開の旅にお付き合い頂きありがとうございました。