【超短編小説】ろくな人生じゃなかった
「ろくな人生じゃなかったなぁ…。」
天井を見上げ、呟いた。
小学校時代。俺はサッカー選手を夢見ていて、毎日サッカーの練習ばかりしていた。チームの中で明らかに俺が一番練習していた。しかし、俺は最後の試合にすら出させてもらえなかった。
中学校時代。サッカーが自分に向いていないことを悟った俺は、当時ハマっていた漫画に影響を受け、バレー部に入った。練習を一度もサボることなく、部活が終わった後も一人で体力づくりのためにランニングや筋トレを行った。しかし、俺の身長は全く伸びなかった。リベロとして試合に出ようと努力するも、練習中に靭帯を損傷。部活を続けることも困難になった。
高校時代。運動が自分に向いていないことを悟った俺は、演劇部に入った。しかし、俺は異様に滑舌が悪かった。様々な発声練習を行い、少しずつ改善はしていったものの、ステージの上に立たせてもらえることはほとんどなかった。引退を迎える公演で初めて、たった一つだがセリフのある役がもらえた時は、無茶苦茶嬉しかった。しかし、そのたった一つのセリフを俺は噛み倒した。
大学受験では、人一倍勉強して、最初に志望していた大学よりもさらに偏差値が上の大学を目指すことになった。しかし、受験前日、緊張で全く眠ることができず、リスニングの英語が全く頭に入ってこなかった。結果はもちろん不合格。浪人するほどの精神力は持っておらず、滑り止めの私立大学に入ることになった。
大学時代。なんとか結果を残そうと、とにかく色んなことに取り組んだ。小説を書いてみたり、歌を歌ってみたり、絵を描いてみたり…そのどれもが、何も上手くいかなかった。そんなことばかりしていたので、勉強も疎かになった。
結局、俺にはなんの才能も無かったのだ。もうすぐ大学生活も終わりを迎える。一人暮らしのベッドで横になりながら、「ろくな人生じゃなかったなぁ…。」と呟く。
「まだまだ若いんだから、大丈夫だよ。」
とか言ってくる大人は、何を根拠に言っているのだろうか…未来が見えない。俺は、どこで道を間違えたのだろうか…もっと何か一つに絞って努力すれば、何かしら結果が得られたりしたのだろうか…。自分が何をすれば良いのかわからなくなってしまった。ベッドからゆっくりと立ち上がり、机の上に置いてあったバカラのグラスを手に取り、ボージョレ・ヌーヴォを注ぐ。グラスを軽く回してから、一口飲む。どうして俺の人生は、こんなにも上手くいかないのだろうか…。高層マンションから見下げる東京の夜景が、涙で滲んだ。隣にいた彼女が、そっと俺の背中に手を添える。親が無茶苦茶金持ちという事と、死ぬほど可愛い彼女が居るということ以外、俺には何の取り柄もないのである。
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