【超短編小説.16本目】一色

 休日のお昼。俺は、近所の公園のブランコに腰掛けた。少子化の影響か、はたまたゲームの影響か…公園には一人も子供がいない…。俺の心の中は、真っ黒だった。
 昨日、上司に叱られた。完全に俺のミスだったので、怒られたことには納得している。納得はしているが、やはり胸の中に黒々とした感情が渦巻く。最近、何も上手くいかない。ふと何者かの視線を感じ前を見ると、柴犬が俺を見つめていた。
「ヘッヘッヘッヘッヘ」という犬特有の息遣いをしながら、じっと俺を見つめている。なんて可愛いんだ。さっきの黒々とした感情が嘘のように、俺の心はピンク一色に染まった。どうしてもこの犬を撫でたい…。モフモフを触りたい。
「あの、触っても良いですか?」
そう言いながら、飼い主の方に目をやると、昨日俺を叱ってきた上司が、そこに立っていた。
「よお。」
そう言って上司はヘラヘラと笑う。
「おまえも、この辺近所なのか?」
俺の心はピンクと黒が不協和音を奏でていた。
「あ、はい…。そうなんです。」
上司の犬というだけで、さっきまでかわいかったこの犬が、どこか憎らしく思えてくる。
「ヘッヘッヘッヘッヘ」
いや、全然憎らしく無い…。すげぇ可愛い。
「かわいいだろ。触って良いぞ。」
上司が笑顔で俺に言ってくれた。この人も別に悪い人では無い、ということに、今更気づいた。心の色彩が、段々と鮮やかになっていくのを感じた。

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