【超短編小説.2本目】一途
「高校時代は、人気者だったんだけどね…。」
そう寂しそうに笑い、彼女は白米を口に運んだ。
「いや、今も人気でしょ?」
と俺が言うと、彼女は首を横に振る。
「もし人気なら、この歳で独り身なのおかしいでしょ。」
「理想が高いんだろ?」
「そんなことないって。」
「じゃあ、俺は?」
「無しでしょ。」
そう言って、再び白米を頬張る。物凄くダサいことをしてしまった気がするし。物凄くダメージを受けた。
「どうすれば、あの頃の人気が取り戻せるんだろうね。」
「俺に聞くなよ。」
「確かに。あんたに聞いても意味ないわ。」
言葉の剣がグサグサと胸に突き刺さる。
「そういうところだぞ。」
「は?」
「そうやって相手の気持ちを考えないから、人気が無くなったんじゃないの?」
「確かに…それはそうかもね。」
そう言って笑い、アジフライにかぶりついた。俺だって、学生時代は、人気がなかったわけじゃない。そこそこモテてきた方だと思う。だが、こいつの飯を頬張る姿を、ずっと見ていたいと思ってしまったせいで、この歳になるまで彼女を作れなかった。
「私達ももう、今年で70歳だよ…。」
70という数字で、自分の脳みそが揺れるのを感じた。
「おかしいだろ!!」
俺は、思わずデカい声を出していた。
「え?」
彼女は、キョトンとした顔で俺を見つめる。
「なんでこの歳になるまで、ずっと二人で毎週のように酒飲んで、なんで恋愛に発展しないんだよ!」
「いやいや、私たち幼馴染だから、兄弟みたいなもんじゃん。」
「そんなわけないだろ!!!好きに決まってんだろ!!!なんで!なんで好きでもない女と50年も毎週毎週飲まなきゃいけないんだよ!!!」
「キモっ。」
「え?」
「え、ずっと私のことをそういう目で見てたってこと?」
「いや、ちょっと待ってくれよ。」
「ごめん。なんかもう、無理だわ。」
そう言って、彼女は3000円置いて、店を出て行った。
「一途なら良いってもんでも無いか…。」
俺は、ビールをゆっくりと口に運んだ。
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