【超短編小説.15本目】一丸
「チーム一丸となって頑張りましょうってよく言うじゃん…?」
「言うね。」
「一丸って言葉、それにしか使わなくない?」
という、クラスメイトの重岡からの、どうでも良い問題提起…。
「まあ、言われてみれば、そうかもね。」
「一丸って『なる対象』でしか無いんだよな…。」
「確かに…。」
「しかも、絶対に『一』丸なんだよな…。」
「ん?」
「二丸とか三丸とか聞いたことなく無い?」
「そりゃそうだろ。一つの丸になることが大事なんだから。」
「でもさ、もし一丸となったチームが2チームあったら、二丸じゃん?」
「確かに。」
「『丸』が単位として使われてないの…可哀想だよな。」
「無茶苦茶単位っぽいのにな…。」
「『球』も『円』も単位として用いられるのにな…。」
「確かに、『球』とか『円』に対して無茶苦茶ジェラシー湧いてるだろうな…『円』に至ってはお金の単位だからな…だいぶ格上感あるよな。」
「意味的にはほぼ同じなのにな。」
「てか、俺らここに居ていいの?」
外から楽しげな声が聞こえてくる。グラウンドを見下ろすと、サッカーで盛り上がっている奴らの様子が見える。今日はクラスマッチだ。
「良いんだよ…どうせ戦力にならないんだから。」
「でもさ、俺らがここにいる限り、クラスは一丸とはなれてないってことだよな?」
「たまには、二丸の日があったって良いだろ。」
そう言って重岡はヘラヘラと笑う。
「『丸』が単位になれた奇跡的瞬間だな…。」
「『球』技がきっかけになるとは思わなかったな。」
「まあ、これで『丸』がジェラシーを抱くこともなくなったんじゃ無い?」
「丸く収まったってことね…。」
「つまんねぇな。」
外から、女子達の歓声が聞こえてくる。ちゃんと一丸になっときゃよかったな…としみじみ思った。