【超短編小説.11本目】一万円
「好きです!付き合ってください!」
そう言いながら、先輩は一万円を渡してきた。
「え?」
戸惑う私に、先輩は深々と頭を下げる。
「なんで一万円?え、一万円払うから付き合えってことですか?」
「あ、違うよ。」
先輩は手をブンブンと振る。
「これは慰謝料。」
「はい?」
「俺に告白されるって、相当なストレスだと思うから、慰謝料。」
「は?」
「好きじゃない人に告白されるってストレスだろ?」
「いや、そんなことないですよ。」
「しかも、俺は君と同じ写真部に所属してるし、俺が告白することで、気まずくなってしまうことも明らかだ。その分の申し訳なさも考慮すると、一万円は妥当だろ?」
「いや、告白で慰謝料なんて聞いたことないですって。」
「あ、てか、一応返事聞いても良い?」
「あ…ごめんなさい。先輩を恋愛対象として見たことないので…。一万円も返します。」
「いや、なんでよ。一万円は貰ってくれよ!」
「なんでそんな一万円払いたいんですか?」
「俺に告白されて良かったってちょっとくらい思ってもらいたいんだよ!!俺の存在が、君にとってマイナスの存在になって欲しくないんだ!」
「気持ち悪過ぎますって。」
「ほら、このまま一万円も払えなかったら、俺はただの気持ち悪い奴だろ?でも、一万円を払うことができたら、君にとって利益のある気持ちの悪い奴になることができる。」
「利益のある気持ち悪い奴ってなんですか?」
「まあ、良いから貰ってくれよ。な?」
そう言って、半ば強引に一万円を手渡し、足早に立ち去っていった。
それから卒業するまでの間に、先輩は10回ほど私に告白をしてきた。私は、電動自転車を買った。