【超短編小説.6本目】一番星
「見て見て!一番星!」
小学1年生になる孫の洋平が、夜空を指差して言った。「一番星」という言葉を、久しぶりに聞いたような気がする。
「本当だね…綺麗ね…。」
と言うと、洋平は
「お母さんの星かな…?」
と言ってきた。
洋平の母…私の娘は、洋平が5歳になる頃に亡くなった…ということになっている。本当は、息子と夫を残して失踪したのだ。どうやら、他に男を作っていたらしい。「自分の育て方が悪かったのだろうか…?」などと考えてしまう。当時、「お母さん…どこ行ったの?」と洋平が尋ねてきた時に、「お母さんは、星になって見守ってくれてるのよ。」と私が言ったのを、覚えていたらしい。
「お母さんの星ではないんじゃない?多分あの星は、お母さんが居なくなる前からあっただろうから…。」
と言って、失敗したと思った。別に本気で答える必要はなかった。というかそもそも、お母さんは星になっていない。駆け落ちしただけだ。
「お母さんの星…どこだろうね…?」
と洋介は夜空を見渡していた。「この子がこのまま真っ直ぐ育ってくれますように…。」と一番星に願った。