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Web3のSocial Design 3:Web3とコモンズ

はじめに

ポスト資本主義の文脈と絡んでコモンズというキーワードがよく出てくる.本稿では,Web3とコモンズにどういう関係があるのか,なぜWeb3でコモンズに注目するのか,Web3でコモンズをどう発展させるべきなのかを議論したい.

コモンズとは何か

山本の『コモンズ思考をマッピングするーポスト資本主義的ガバナンスへ』(BMFT出版部)には「最近になって,さまざまな分野で,社会設計を考えるうえでの一つのキーワードとして,コモンズの概念が見直されるようになっている.」(序章.p8)と書かれている.資本主義による開発が途上国のコモンズである森林を破壊している問題,地域コミュニティが管理していたコモンズを買い上げて開発・荒廃化してしまう問題,そういった点でコモンズが注目されている.この本には「一つには,『コモンズ思考』は,近代的な所有権の思想に対する批判をふくみ,資源の所有の視点より資源の使用,管理の視点を重視する仕組みづくりをめざしているということである.もう一つは,『コモンズ思考』は,資源を管理する仕組みの一環として,コミュニティの自治能力を高めていくことをめざすという点が特徴的だ.」(序章,p10)とも書かれている.

この本が「インターネットの普及によって,遊休資源を共有する仕組みをつくるのが容易になっていることだ.」(序章,p18)と指摘しているのが興味深い.Web3はインターネットにも増して,コモンズを共有するのが容易な世界であると思うからである.

ハーディンの「コモンズの悲劇」では,共有資源である牧草地に農民が自分たちの牛を我先にと放牧してしまうので,管理されていない共有牧草地の牧草が枯れてしまう問題が指摘された.しかし,オストロムは,共同利用者がルールを作って管理すればコモンズの悲劇が生じないことを指摘した.ここにコモンズを利用するコミュニティの重要性が浮かび上がる.Web3のDAOに代表される自律分散型のコミュニティならばコモンズを管理することができるのではないかと期待できるのである.

この本には「そのため,『ネオ・リベラリズム』に対抗するには,『カウンターヘゲモニー』の側の『コモンズ思考』の深化が重要であり,功利主義と主流派経済学を根本的に批判できる理論的な枠組みづくりが必要になっている」(序章,p30)と書かれているが,新自由主義の元で成長を続けてきた経済が地球環境を破壊してしまい「脱成長」が求められている現代社会における「コモンズ思考」の重要性を指摘していると言えよう.

この本では「主流派経済学の中心的人物であるポール・サムエルソンは,財を私的財と公共財に二分する.私的財とは,(a) ある人が利用権を独占しやすく,また,(b) ある人の利用と他の人の利用が競合するような財だとする.(中略)サムエルソンは,(a)(b)ともに該当しないような財を公共財として定義した.オストロムは,この2変数を使って,コモンズ的資源を位置づけている,つまり,(a)の条件は充さず,(b)の条件だけを充す資源を,コモンズ的資源と見なすことができる.」(第1章,p37)としてコモンズを定義している.

つまり,aの独占による排除性,bの利用の競合性を共に充たす資源が「私的財」であり,共に充さない資源は「公共財」であり,競合性はあるが排除性がない資源がコモンズである.共有資源といっても良いかもしれない.海洋資源,農地,森林,水資源,牧草地などがコモンズの例である.先に述べたように,コモンズの悲劇を防ぐためにはコモンズを管理するコミュニティの存在が重要となる.

Ethereumはコモンズ?

coindeskの和訳記事「イーサリアムを「公共財」と捉え、守るために【オピニオン】」では,「つまりある意味では、イーサリアムブロックチェーンは公共財だ。ある種のデジタル都市のようなものが、多くの場合、その市民たちによって、皆の幸福という目的のために建設されている。しかし現実的には、私たちが公共財と定義する多くのものと同じように、特に国家がかかわっていない状況では、イーサリアムブロックチェーンは「コモンズ(共有財産)」のように機能する。そしてすべてのコモンズは慎重に管理する必要がある。」と述べている.イーサリアムのエコシステムは,Ethereum Foundationなどのコミュニティによって慎重に管理されている,Web3の世界を形成する基盤となるコモンズと捉えてもよいのかもしれない.

Wiredの記事によると,Ethereum Foundationの宮口あやも「身の回りにあるインフラや生活に根付くソリューションは、いままでは政府に頼るか、少なくとも大企業のプラットフォームの影響を受けながら制限される状況での開発や利用しかできなかった。それがイーサリアムでは、外からの政治的・経済的な干渉を最小限に、ガバナンスも自分でデザインできる。つまり一個人で、技術とソリューションの間にある人間のコーディネーションをつくりあげることができる」と述べているそうで,「イーサリアムは、誰もがその上にさまざまなプラットフォームやソリューションを展開できる一種の「公共財」であり、イーサリアムを人間のコーディネーションのプロトコルとして利用することが重要なミッションである、と宮口は述べているわけだ。」(Wiredの記事)と解釈できる.

Web3におけるコモンズの意味

インターネットの創世記,インターネットはみんなの共有財産だった.いろいろな人がアイデアを出し,起業し,インターネットでさまざまな活動が行われた.同様に今,Web3もみんなの共有財産と言えると思う.Web3の世界で何ができるか,いろいろな人がアイデアを出し,プロジェクトに取り組み,いろいろなブロックチェーンやプロトコルが提案されている.誰もが参加できるWeb3という新世界の共有地という意味で,Web3はコモンズであると思う.

米国のローレンス・レッシング教授などが創設した「Creative Commons」というライセンス形態があるが,彼は『コモンズ』という本も書いていて,「ネット上の所有権強化は技術革新を殺す」という副題がついている.インターネットの次の時代のWeb3において,ブロックチェーンもその上で動作するプロトコルもオープンソースであることが多いが,この文化は,Web3技術とWeb3が切り開く社会がすべての人にオープンである公共財であるべきであるという考えを支持していると思う,

DAOとよばれる分散型自律組織もコモンズを管理するコミュニティとして適していると思われる.トップダウンな中央集権的な組織とは異なる分散型自律組織はコミュニティとしての特徴を強く持つので,コモンズという共有資産を管理する組織形態に適している.公共財と言ったが,実際には競合性が生じると思われるのでコモンズという捉え方の方が適切であろう.

では我々はWeb3でどのようなコモンズを創り出し,世の中をどう良い方向に変えていくべきなのか,その具体的アイデアを出してプロダクトを作っていうことが今の開発者に求められているのだと思う.

Web3でのコモンズの活動例

Gitcoinは,”From products to protocols, our tools empower community-led funding and trustworthy digital experiences.”な組織であり,オープンソースな公共財を対象とするプロジェクトへの支援を行っている.Wiredの記事によると,GitCoinの創設者ケヴィン・オウォッキは「環境問題や民主主義の実践といった現代のウィキッド・プロブレム(厄介な問題)の原因は、人々が公共財へアプローチする際のインセンティブ設計が整備されていないこと(=コーディネーションの失敗)にあるという。」,「Web3やDAOは公共財やネットワーク財へ取り組むためのインセンティブを再設計することで、これらの課題を解決し、分散型社会の理想像が実現できると主張したのだ。」と述べているそうだ.

我々はWeb3という技術を使って,サイバー世界に新しい社会を構築できる.そこで活動する人の社会,そこで生成されるサイバー世界上の資源,それに対して公共財産とかコモンズ(共有財産)にするのだという姿勢が必要なのだと思う.別稿「Web3のSocial Desgin2:脱成長+Web3での経済成長」で議論したようにWeb3で経済成長を行うためには,Web3上の私的財産が必要になるが,資本主義が求める成長は私的財産を作って続ければ良いけれど,それ以外はコミュニティが管理するコモンズに置いて,参加者全員の利益になるようにすることが必要なのだと思う.そしてリアルな地球上の活動は,地球というコモンズを大事にして自然とふれあう豊かな暮らしを送りたい.

まとめ

本稿ではまず,競合性はあるが排除性がない共有資源としてのコモンズの定義と,コモンズの悲劇を生じないためにコモンズを管理するコミュニティが重要であることを確認した.また,Web3のDAO(分散自律型組織)がコモンズを管理するコミュニティとして適していることも指摘した.経済成長が母なる地球を破壊してしまう現状においてコモンズを大事にする姿勢が重要であるので,Web3がもたらすコモンズの可能性も議論した.

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