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イギリスにおける若年層の貧困問題|大学生振り返りシリーズ

年末年始にひいひい言っていた卒論も年始に無事提出でき、もうすぐ待ち構えている口頭試問を終えれば、卒論からも解放されます。

卒論って大学生活の集大成と言われるけれど、正直ラスト3ヶ月でエンジンかけたんだよね。正直、短期間でいかに効率的に書き上げるかがポイントでしょ、と思いながらも、結局いろいろな学びの詰め合わせになったので集大成と言えるかもしれません。だといいな。

せっかくなので内容モリモリ盛り沢山に綴ろう。かなり長いので、気になるところへ飛んでください。最後には、内容に関連する映画と本の紹介もしています。テーマは「イギリス社会保障制度」です。

◆イギリス社会保障を、卒論テーマに選んだ理由

一文にまとめると「学校での学びと、目で見た現実にギャップを感じたため」です。そしてそのギャップに興味を持ち、埋めたいと思いました。

イギリスは、社会保障制度が充実した国

Photo by Danijel Durkovic on Unslash

イギリスは社会保障が充実している国とされています。「ゆりかごから墓場まで」のフレーズは、誰もが中学や高校で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。生まれてから死ぬまでの社会保障制度の充実を表したものです。

イギリスでは、特に第二次世界大戦終わりごろから、福祉国家の成立が目指されていました。1950年あたりで教育や医療関連の制度が整えられはじめ、代表的なものにNHS(National Health Service)が挙げられます。

Photo by Online Marketing on Unslash

NHSのコンセプトには「すべての人に医療へのフリーアクセスを提供する」が掲げられています。これは、医療を必要とする人は誰でも無料で(例外あり)医療を受けられることを表現したものです。戦後間もない1948年から実施されたこの制度は、幾度か内容に手を加えられつつ、現在も運用されています。


イギリスへ行ったときに抱いた疑問

イギリスの社会保障制度に疑問を抱いたのは大学3年生のとき。イギリスへ短期留学をして、実際に自分の目で、イギリスの社会を見たことがきっかけです。

滞在先の土地へついてすぐ、いたるところにホームレスの人がいることに驚きました。日本にいたころは、あまり見かけることがなかったのに。

生活の拠点はBrightonブライトンという海沿いの街だったのですが、スーパーマーケットの前や駅周辺、路上など、街を歩けば必ずホームレスのような人がいる状況でした。

ブライトン

首都ロンドンではもっとひどかった。大都市でキラキラしているんだろうと期待していて、そして実際もキラキラしていたんだけど、歩くたびに見かけるホームレスの人々に胸が痛みました。

ロンドンの街並み

「イギリスって社会保障制度が充実しているはずなのに、なんでこれほどホームレスが多いんだろう?」と感じ、せっかくなので卒論で調べようとテーマにした次第です。


◆卒論を終えて、分析と持論

イントロダクションから順番に書きたいのですが長くなるので、先に結論か
ら。問いに対する答えとかではなく、イギリス社会保障制度を深ぼる結果得られた分析結果&持論です。

イギリスの社会保障制度には、弱者を救おうという意思が見られ、実際に制度を運用している面が評価できる。
一方で、一時的なしのぎ・根本的な解決に至っていないという点が課題点。


◆卒論概要

Chapter I :第二次世界大戦直後から1970年代における、福祉国家成立と社会的・経済的衰退(1945年〜1979年)

第一章では、1945年ごろから1970年代までの繁栄と衰退について言及。

【繁栄】
第二次世界大戦直後から、ベヴァリッジ報告という、社会保障制度拡充のための報告内容をベースに、イギリスは福祉国家への道を歩み始めます。ベヴァリッジ報告はナショナルミニマム論(「国が国民に対して最低限度の生活を保証すべき」とする論)に基づいており、以後イギリス社会保障の基盤になります。

教育・医療・住宅関連をはじめとするさまざまなジャンルで法整備が進められ、世界的にも、イギリスは福祉国家であるとの印象が強まります。

中でも有名なものは、冒頭でも取り上げた、National Health Service(NHS)です。

【衰退・停滞】
しかし、1960年代ごろに社会・経済的停滞が深刻になりました。具体的には、工業の生産性と輸出力の低下、勤勉でない労働者・人々の増加、恒常的なインフレーション、ポンドの価値下落など。イギリスにとって暗い時期で、「英国病」と表現されるほど。

社会・経済が停滞した要因の一つは、行き過ぎた社会保障制度。国が国民を保障制度で保護するあまり、「働かなくても生活できる」状況が生まれてしまい、結果的に人々の労働意欲の低下につながりました。

そこで登場し、ターニングポイントとなったのが、マーガレット・サッチャー首相です。


Chapter II : サッチャーとブレアの時代(1979年〜2007年)

1979年に英国初となる女性の首相、マーガレット・サッチャー政権(保守党政権)が誕生します。

彼女は「鉄の女」と称されるほど、国民にとって冷淡で厳しい印象を与える政策を次々と取りました。

例えば、膨大な社会保障支出を削減するため福祉国家の解体の方向へ舵を切り、国家支出削減のために国営企業を民営化し、労働組合の力を弱めるために労働組合の解体も行いました。

結果的には、英国病からは脱却できたものの、失業率の増加や貧富の差の拡大など、貧困問題を中心とする社会的な問題が顕著に現れることとなりました。

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保守党に代わり、1997年にはトニー・ブレアを首相とする労働党政権が生まれました。

彼は、サッチャー時代に深刻化した、失業率の高さ・社会的排除(個人や集団が、社会から排除された状態のこと。貧困が大きな要因の一つ)の問題を重要視。

彼の政策では、特に教育・雇用政策に力が入れられました。イギリスの貧困問題にはさまざまな要因が複雑に絡み合っているのですが、要因の一つに「貧困の循環」が挙げられます。これは「子どもの頃に貧困家庭や環境で育った場合、大人になっても貧困から抜け出せない傾向があること」を意味します。

大人になっても貧困から抜け出せない理由の一つは、就労にあたって必要なスキルがないこと。そこでブレアは、失業者に対して職業訓練を実施し、必要なスキルを身に付けさせたり、教育現場に多額の予算を投じ、教育環境を向上させるなどを試みました。余談ですが、ブレアは首相に就任する前の演説で、「Education, education, education」と言うほど、教育には目をむけていたようです。(参考URL:'Education, education, education' / BBC News

細かい状況を話すと他にも要因や政策がありますが、大枠はそんな感じです。

ブレア政権の取り組みの結果、貧困問題に関わる数字は改善の傾向にあるため、一定の効果を挙げられています。とはいえ、貧困問題が解決されたとは言えない(100%貧困問題がない状況はありえないのですが)ため、引きつづき政府による取り組みが行われます。


Chapter III:21世紀のイギリスにおける貧困状況

イギリスについて話しつづける前に、一度視野を広げて、ヨーロッパ全体の取り組みを見てみます。

ヨーロッパ連合(the European Union=EU)でも、社会的排除(個人や集団が、社会から排除された状態のこと。貧困が大きな要因の一つ)への取り組みが行われ始めました。

2010年には「欧州2020(”Europe 2020”)」という、雇用を生み出し生産性と社会的な統合を強めることで、安定的な経済を作ることを目的とした戦略が立てられました。

貧困の解消も目的に掲げられ、各国への達成目標も提示されました。イギリスでは、すでに同国内で設定していたChild Poverty Act 2010の数値目標を達成することが課せられました。

内容を詳しく説明すると長くなるのでざっくりとまとめますが、つまりは、ヨーロッパ全体としても貧困は重大な問題であると認識でき、中でもイギリスにおける子どもの貧困は解決すべき優先度高めの問題であると言えます。

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イギリスにおける近年の貧困状況を考えるにあたり、失業率を見てみます。

失業率自体は、2008年にリーマンショックが起きたあたりで高くなり、2013年ごろに減少傾向に転じます。その後2019年には新型コロナウイルスの影響もあり、再び増加傾しました。

若者に焦点を当てると、16才〜24才の失業率は、25才〜49才の失業率と比べて、常に高水準にあります。このことから、若年層の失業問題は深刻であると言えるでしょう。

子どもや若者に対する政策について例を挙げると、離学年齢の16才から18才への引き上げ(イングランド内)、|Youth Obligation《ユース オブリゲーション》という、6ヶ月以上定職についていない18才〜24才の人々をターゲットとした就業促進政策が挙げられます。もちろん他の制度も設けられていました。

結果については、成果が挙げられたものもあります。Youth Obligationは職業訓練のようなもので、ターゲット(6ヶ月以上定職についていない18才〜24才)は段階的に職につくためのスキルを身につけ、仕事を見つける手助けになります。2017年に開始されたのですが、2018年〜2019年の間には87.5%の参加者が、3〜4ヶ月以内に職業訓練プログラムを終了させています。これは、過去の取り組みと比較しても、効果を挙げられたと言えそうです。(参考文献:"Youth Obligation Support Programme Statistics", Department for Work & Pensions, published July 1, 2019)


Conclusion |まとめ

冒頭にも書いたものを、再びこちらにぺたり。

イギリスの社会保障制度には、弱者を救おうという意思が見られ、実際に制度を運用している面が評価できる。一方で、一時的なしのぎ・根本的な解決に至っていないという点が課題点。

第二次世界大戦直後から、福祉国家建設に向けた取り組みが行われてきたイギリス。ナショナルミニマム論(「国が国民に対して最低限度の生活を保証すべき」とする論)に基づき、社会保障制度充実させてきました。

どの時代の制度にも、弱者を救おうという意思が見られる一方で、根本的な解決に繋がっているか否かについては疑問が残ります。教育や雇用政策については幾度となく改善がなされているものの、制度として落ち着いたものはないように思えるためです。また、失業率をはじめとする、貧困に関する数字からも、大きく改善したとは捉えづらいです。


◆あとがき

最初は何から手をつけて良いか分からず、読んではやめてを繰り返し、書き始めてからも書いては消しを繰り返し、結局余裕など持てずに締め切り当日を迎えたなぁと、つい1ヶ月前のことなのに懐かしく感じます。

12月末の佳境のときには、友だちとカフェで「終わらない」と言いながら進めたのも、ゼミへ行くたびに「卒論締め切りに間に合うか不安なんだけど」とか言いながら進捗共有したのも、今となっては大学生活の思い出の一つになりました。

もう2度とこれほど長い論文は書きたくないけれど、終えてみると悪いものじゃなかったなと、なんだかんだ愛着が湧く論文に仕上がりました。

最後に、イギリス社会保障についてと、今回話した内容に関連する映画と本を置いていきますので、気になった方は是非見てみてください。


◆イギリス社会について知れる映画・本


「ボブという名のストリート・キャット」
…一人のホームレス男性と、一匹の猫の物語。映画化もされています。イギリスのキラキラしていない部分を見ることができます。


「わたしは、ダニエル・ブレイク」
…まさに、NHSなどの社会保障制度がテーマです。若いママとその子どもとおじさんがメイン登場人物。


「パレードへようこそ」
…サッチャー政権下における、ウェールズ(イギリスのとある地域)の炭鉱労働者と、ロンドンのLGSM(レズビアンズ・アンド・ゲイズ・サポート・ザ・マイナーズ)の若者たちとの交流を描いた映画。














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