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高度な技巧を要する曲について、歌手の視点から

先日、府中の森芸術劇場ウィーンホールという素晴らしい音響を有する音楽ホールでモーツァルトのモテット<Exsultate, Jubilate 踊れ、喜べ、幸いなる魂よ>をオーケストラ伴奏で歌わせていただく機会がありました。

この曲はコロラトゥーラと呼ばれる、速いパッセージに細かい音が沢山並ぶ高度な技巧を要する部分が多くを占めています。

全3楽章を演奏会で歌ったのはこれで2度目。前回は弦楽合奏版で歌い、本来のオーケストラ編成で全曲歌ったのは今回が初めてでした。

本番も、それに向かう練習も面白かったです。

背骨や首の角度、舌の位置で笑っちゃうくらい転がらなくなります。このやり方が全て正しいとは言いませんが、私が私自身の身体を楽器として扱い演奏するために身体中のあちこちにスイッチがあって、それを必要に応じて操作しながら歌う、本当に飛行機の操縦士になったような感覚でした。

ピアノその他の楽器は、演奏者以外にそれを楽器として整える専門家によって楽器として成り立たせてから演奏できるのですが、歌は楽器として成り立たせるところから演奏家本人がやらなくてはならないので、その点は非常に難しいところだと思います。フルートの管の中に異物が入っていたら上手く音が出ないのと一緒で、フルートなら異物を取り除いて一件落着ですが、歌は口の中の舌が異物のように声を出すのを邪魔している状態で無理やり声を出しているということが"ざらに"あるわけです。他の楽器では考えられないような楽器の状態で奮闘しているようなことが歌では頻繁に起こっていると思います。

今回のモテットのような高度な技巧がないと歌いきれない曲は、そういう「楽器としてありえない」状態を一つ一つチェックして、問題をほぼ全てクリアしていって初めて歌える、分かりやすいバロメーターとして使えます。私なりに何とか出来たことからも、完璧には出来なかったことからも沢山の学びを得ることが出来ました。こういったシビアな曲を時々は歌わないと、自分の現状を確認することは難しいなと痛感出来た経験でした。

今回得た感覚やコツを、それほどシビアでない曲(課題がクリア出来ていなくても、それほど簡単にはバレにくい曲)でも活かしていくことが大切だと思っています。

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