ヴィブラートのはなし
適切なヴィブラートは、息のスピードや量、横隔膜を使った声の出し方などに関連して上達の過程でまずは自然に出てくるものです。声楽を始めた、特に若い生徒は最初はヴィブラートがかからない、まっすぐな声で歌います。それから段々と身体を作っていき、正しい方向で歌いこんでいくうちに、まずは自然な形でヴィブラートの初期段階の状態が現れます。そこから特別にいじらないようにして声を育てていき、ある程度そのヴィブラートが自然に安定してきたところで、今度は音楽に沿って(時代、様式、言語等の特徴にも応じて)コントロールする段階に移ります。
ヴィブラートがかからない状態、段階の方が、ヴィブラートに憧れて自分でヴィブラートを作ってしまうことがあります。最初はかかったような感じがして、それを使って歌うのですが、人工的なヴィブラートであるがゆえに非常に不自然であり、しかも気が付いたときには癖になってしまい、取るにも取れない状態に陥ることが多いです。
ですから私は生徒さんには絶対にヴィブラートは作らないでくださいとお伝えしています。かからないんだったらかからない状態で良いという風に指導します。なぜならその人工的なヴィブラートをいったん身につけてしまうと、本人も指導者も大変苦労するからです。作ったヴィブラートは声楽をやる上で最も取りにくい癖の一つだと思っています。
よく「ヴィブラートはこうやってかけよう」というHow toの動画や解説がありますが、ポップスや歌謡曲ではそれは本当に認められているのでしょうか?少なくともクラシックでそれをやったら偽物のヴィブラートと見なされアウトです。ポップス歌手、演歌歌手などを聞いても、上手な人は不自然なヴィブラートはかかっていません。ヴィブラートには癖があっても、味わいがあり聞かせられる歌手はそれはそれで魅力を感じます。でも生徒には「味わいがあれば癖が強いヴィブラートでも良いですよ」とは指導者としては教えられません。
自分のヴィブラートが自然であるものかどうか、適切なものであるかどうか、これを使っていっていいのかどうか、というのは本人がなかなか判断がつかないものなので、ヴィブラートが正しく聞き分けられる第三者に必ず聞いていただくことをお勧めします。
ヴィブラートは使い方次第で最強の武器のひとつになりますので、コントロールをして、しっかり使いこなすことを目標としなくてはなりません。例えば音楽的に緊張感があり、声をあまり震わせると音楽が生きないところではヴィブラートを抑え、クレッシェンドしたりどこかに向かっていくときには音楽をより生き生きとしたものにするためにベストなタイプのヴィブラートをしっかりと用います。
最終的には他人のヴィブラートも自分のヴィブラートもきちんと聞けるかどうか、自分のヴィブラートならば音楽に即してしっかりとコントロールできるかどうか、が音楽をやっていく上で非常に大切なことであり、自分の演奏のレベルアップに確実に結びつくものであると考えています。
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