「やりすぎだと先生に言われるくらい、釉薬の実験を重ねました」日常を楽しくする“色”にかける想いとは
【インタビュイー】陶芸作家・Enkel
釉薬を操り、日本ではあまり見かけないようなカラフルなうつわを作り出す、陶芸作家の室伏真美さん。
大学卒業後ハウスメーカーで住宅設計をしていたが、夫の転勤がきっかけとなり、以前から興味があった陶芸の世界へ飛び込むことを決意。2児の育児を担いながら横浜いずみ陶芸学園に入学し、一から陶芸を学んだのだという。
そんな室伏さんが在学中にハマったのが、さまざまな色を作り出す「釉薬」の魅力だった。そこで室伏さんに、陶芸に興味をもったきっかけや在学中に学んだこと、作品へのこだわりなどを伺った。
住宅設計の仕事から陶芸の世界へ
ーー陶芸活動をスタートされたきっかけをお伺いできますか?
室伏真美さん(以下、室伏):きっかけになったのは、主人の転勤です。
もともと私は建築やビルに興味があり、建築関係の大学を卒業した後はハウスメーカーで注文住宅の設計をしていました。でも、結婚して産休に入ったタイミングで主人の北海道への転勤が決まり、仕事を辞めることになったんです。
そのときに主人にかけられたのが、「北海道から帰ってきたら好きなことをやっていいよ」という言葉。それならばと思いついたのが「陶芸」でした。実は、家を設計しているうちに、家の中のもの、例えばインテリアや食器も作ってみたいと思うようになっていたんですよね。そこで、プロの陶芸家を養成する「横浜いずみ陶芸学院」に入学することを決めました。
ーー「好きなこと」=「陶芸」に結びついたんですね。学校に通うことを決意されるまでにも陶芸に触れる機会はあったのでしょうか?
室伏:ハウスメーカーで働く傍ら、陶芸教室にも通ったことがあります。ただ、陶芸教室は窯で焼くといった「面倒くさいこと」は、先生がやってしまうんです。楽しかったのですが、自分1人で陶芸を作り上げる技術は身につけられませんでした。だから「好きなことをやっていいよ」と言われたときに、そんな技術を身につけたい、と考えましたね。
ーー学校を卒業されてからは、どちらで作業されていますか?
室伏:千葉の稲毛海岸に「アート・コミュニティ美浜」という、アーティストが作業できる小さい部屋をいくつも備えた工房がありまして。卒業と同時にその工房の一室が借りられることになりましたので、今はそちらで作業をしています。
陶芸をするために必要な「窯」は、車を買うのと同じくらいお金がかかりますし、作業場所の確保も大変です。その工房では「窯」も電気代を支払うだけで使えているので非常に助かっています。
在学中にハマった「釉薬の配合」
ーー陶芸の学校に在学中は、特にどのようなことを学ばれたのでしょうか?
室伏:在学中は、「釉薬」にとことんハマってしまいました。
私が陶芸をやる上で一番こだわってるのは「色」。その色を作り出すのが、陶芸に最終的にかけるガラス質のうわぐすりである釉薬なんです。釉薬の配合と窯の温度でまったく違う色が出せるので、「やりすぎだ」と先生に言われるくらい実験を重ねましたね。
また、釉薬は1つだけ使うことが多いのですが、私の場合は釉薬の上に釉薬をかけて、柄の表現もしています。2つの釉薬を使うときには、釉薬同士の相性によっても色や柄が変わりますから、学生時代に試した結果が今の作品に生きています。
ーー釉薬の研究をされていたんですね。試作品はどれくらいの数になりますか?
室伏:自宅にある試作品だけでも300個くらいでしょうか。ただ、今も置いてあるのはうまくいったものだけなので、その3倍くらいは実験したかもしれません。
さらに、釉薬だけでなく化粧土に「着色金属」で色をつける勉強もしましたね。色をつけるには、陶芸用の顔料という絵の具をベースにするのが一般的なのですが、着色金属で色を出すと輝きが違うんです。今は使用ができないウランや鉛といった材料の代わりに使えるものは何だろうかと、元素記号をみながら探して作ることも繰り返していました。
ーーお子さんがいらっしゃるなかで、これだけ学ぶのは大変だったのではないでしょうか?
室伏:子どもは2人いまして、ちょうど下の子どもが3歳になったタイミングで保育園に入れて学校に入学しました。もちろんお迎えの時間が決まっていますので、他の生徒さんのように遅くまで残って作業することはできませんでしたね。
ただ、釉薬は座学ですので家でも作業ができるんです。ひたすら測って配合するのは家で、粘土と格闘するのは学校で、というようにメリハリをつけて勉強しましたね。
日常を彩る食器の使い方まで提案したい
ーー「色」のために釉薬の実験を繰り返したとのお話でした。なぜここまで色にこだわっているのでしょうか?
室伏:私は、目に入るものにかなり影響を受けるんです。そのなかでも、好きな色や好きなインテリアに囲まれていると、とても幸せな気持ちになります。仕事でちょっと疲れてしまったときも、お気に入りの色や形が目に入れば少し楽しい気分になれることってありますよね。そんな普段の生活に彩りを加えるような、生活をより豊かにするような食器を作りたくて、青やピンクといった目を引く「色」にこだわっています。色だけでなく、柄も印象に残るようなものを意識していますね。
ーー確かに室伏さんの作品は、ブルーや紫、ピンクなど、日本の食器にはめずらしいほどカラフルなもので、目を奪われます。
室伏:特に「紫」の色はめずらしいと思いますね。窯の温度や釉薬の厚さでブルーや紫を表現しています。そして、カラフルなお皿にさまざまな料理をのせて発信することで、使うシーンの提案もしていけたらと考えているんです。あわせて、「インテリア」としての使い方もお伝えしていきたいですね。
日本では、お皿を飾ることは一般的ではないかもしれませんが、お皿はガラス質なのでキラキラして目を引きますし、重みもありますから存在感もある。絵画より手軽なのに、高級感があるインテリアとしても取り入れていただけたらと思っています。
ーー作品の題名には、英語のものもありますよね。色や柄のイメージから決めるのですか?
室伏:そうですね。大皿には英語の題名をつけているのですが、全部マザー・グースというイギリスの童謡からつけています。マザー・グースは抽象的な童話のような歌詞が多いのですが、お皿の抽象的な柄に合うと思ったんですよね。童謡を聞いた人と同じように、お皿を見た人にもそれぞれのストーリーを想像していただければ、という思いを込めています。
自分が本当に使いたいものを作る
ーー色や柄、形などのデザインは、どのようにイメージを固めていかれるのでしょうか?
室伏:そうですね。私は、「自分自身が使いたいもの」を中心にイメージを固めて制作をしています。
陶芸を始めた当初も、作ったのは自分の子ども用の食器でした。子ども用の食器はプラスチック製のものばかりで、使いたいと思えるものがあまりなかったんですよね。まずは誰よりも自分が使いたいもの、元気がもらえるものを作りたいという想いが、私の陶芸活動の原点なのだと思います。
ーー制作をする中で、大変だと感じる瞬間、楽しいと感じる瞬間はどんなときでしょうか?
室伏:大変だと感じるのは、「窯」の調整ですね。窯の温度や入れる場所にかなり影響を受けて、思ったような色がでなかったり形が崩れたりします。そこに今も苦戦していますね。
あとは子どもがまだ小さいので、外に売りに出すことがほとんどできていません。だから、自分の作品を直接誰かに見てもらったり反応をもらったりする機会がないんです。1人で模索しつづけるのは、辛い面もありますね。
楽しいなと思うのは、やはり自分の作品を実際に使っていただいているのを見た瞬間です。子どもたちが私の作品を見て「この色はいいね!」など意見をくれるのも嬉しいですね。
ーー今後の目標や制作活動への想いをお伺いできますか?
室伏:私は、これまでは比較的小さいもの、例えばマグカップなどを中心に制作してきました。ただ、もっと大きいものに釉薬で柄を描くこともすごく楽しいと気がついたんです。絵を描くように柄を描けますから、釉薬と自分の良さを引き出せる気がしています。
だから、皆さまの普段の生活を豊かにするものを作るということをベースに置きつつ、今後は公募展に出せるくらい大きいものにも積極的に挑戦していきたいですね。もちろん、釉薬についてもさらに研究をしていきたいと思っています。
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