女性たちのオンラインでの安全を守る新興プラットフォーム
インターネットは階級、異なる言論、分断を可視化し、炎上の頻度も加速化し、たいそう治安の悪い公共空間となった。
19世紀末にフランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンが指摘した群衆像はテクノロジーが進化しても普遍的な特性があることを気づかせてくれる。
開かれすぎたインターネットで攻撃の「標的」になる属性はさまざまあるが、特に「女性」に対するオンライン・ハラスメントは世界的な社会問題になっている。
日本で若い女性の大半がオンライン・ハラスメントに遭遇経験があるという。
人気の動画プラットフォームTikTokでは、2022年2月に危険行為や性差別を禁止するコミュニティーガイドラインを改定。
ユーザーを女性へのハラスメント、トランスジェンダーへの差別、同性愛差別から守る対策を強化することに。
2021年のアメリカの調査では、オンラインゲームで女性ゲーマーの77%が性別に関連したハラスメントを受けた経験があると答えている。
新しい安全な空間
誰もが参加できるプラットフォームなど、開かれた空間でヘイトスピーチやハラスメントを規制することに限界が見えてきたことから、様々な女性主導の女性たちのためのコミュニティやプラットフォームが増えてきた。
ここでいう「女性たち」の定義は包括的で、シスジェンダーの女性、トランスジェンダーの女性、ノンバイナリーと多様な人を含める。
ゲームプラットフォーム「Paidia」
女性、男性、ノンバイナリーなど、すべての性別を包括するデジタルゲームポータル。
全ゲーマーの約半数が女性だと言われているものの、先ほどあげたような女性へのハラスメントを避けるために、マイクをオフにしてプレイしたり、男性や性別に関係ないキャラクターを使ったり、「回避」しなければゲームを楽しめない状況を改善する目的で運営されている。
安全に経済活動を行えるクリエイター・プラットフォームSunroom
ソーシャルメディアにおいて、ボディポジティブだったり女性の「性」にまつわるコンテンツは、肌の露出や表現がルール上、一律「望ましくない」ものとして規制されてしまう。
OnlyFansが2021年にマネタイズで外せない決済企業のルールにしたがって、ポルノコンテンツを一時的に禁止した際、様々な議論が起きた。性的なコンテンツを作るクリエイターやセックスワーカーの権利について問題が顕在化した事案だった。
Sunroomでは、セックス・ポジティブ、プレジャー・ポジティブな前提でプラットフォームが設計されている。女性やノンバイナリーのクリエイターが危険に晒されず検閲に怯えず収益化できる仕組みを作ろうとしている。
フェミニストが自己表現するLips
Lipsはフェミニストやクィアのクリエイターが自由に自己表現できるソーシャルメディアプラットフォーム。
Lipsの設立者Annie Brown氏は、Tumblrなどのソーシャルメディアでポルノが禁止され、ユーザー自らが自己表現する自発的なコンテンツよりも、盗撮や同意を得ていないような搾取的なコンテンツが闇で流通したと指摘する。
Lipsは健全化なセックス・ポジティブを実現できるよう、自分自身の身体、文章、アートなど様々などを投稿できて、収益化も今後検討している。
黒人女性の支援を開始したEbay
Black Lives Matter(BLM)以降、黒人の事業主の公平性を高めることが企業としても課題となっているが、Ebayでは特にビジネスの成長に必要な知見にアクセスしにくく成功の機会を逃している黒人女性のサポートを開始。支援団体のBlack Girl Fest(BGF)と提携を開始した。
Web3.0と女性コミュニティ
非中央集権で、新しいインターネットの在り方といわれてバズワード化している「Web3.0」の領域では、新しい女性同士の互助関係のあるコミュニティがたくさん生まれている。
有志の3名の女性によってnotionでまとめられているコミュニティリストはどんどん数が増えていっている。
女性主導で立ち上がったBFFは、50名の著名な女性リーダーが参画するプロジェクト。暗号通貨とWeb3.0を女性が学べるコミュニティ。
2021年の時点で、暗号通貨購入者の81%が男性であることを問題提起している。
ブロンドの女優から、セックス・ポジティブなライフスタイルブランドのCEOになったグウィネス・パルトロウもメンバーに入っているのも興味深い。
現実の世界で女性を守るアプリ
女性の安心・安全は現実の社会でも重視される。
オンラインで傷つくのが「心」だとすれば、現実に場での被害は「心」だけではなく「身体」にも及ぶ。
韓国では、校内暴力、性的虐待、家庭内暴力などから女性を守る多種多様なアプリが存在している。
Guardian Angel(안심귀가 수호천사)
Smart back home safely(스마트 안전 귀가)
Smartphone Safe Return Service (스마트폰 안전귀가 서비스)
112 Emergency notification app(112 긴급신고)
Sex offender notification(성범죄자 알림이)
ロンドンでも女性が一人で安全に外出するためのアプリが開発されているが、ストーカーの悪用にも気を配っている。
住み分けが安全につながるのか
女性にとって安全な場所の確保は、オンライン/オフライン、国も問わず重要な課題であり続ける。
先ほどあげたWeb3.0同様に新しいインターネット上の空間として期待される「メタバース」でも似たような課題があることを以前書いたnoteで考察しているが、模索し続けるしかないのかもしれない。
開かれた多様性ある場と、安心できる閉じた場所を行き来できるよう住み分けて複数の「居場所」を作っていくのが、女性が隠れることなく、自信を持って自己表現できる場づくりに必要なことだと思う。
Photo by Kyle on Unsplash