AI婚活についての一見解
(2020.12.09に書いたブログ記事を転記したものです)
「内閣府が”AI婚活”活用を支援へ」という記事が発表されました。
背景のアルゴリズムがわからないのでなんとも言えない部分はありますが,基本的に「マッチング」という点ではメリットがあるかもしれないけれども,「少子化対策」や「恋愛・結婚の意味/意義」という点ではデメリットが大きいのではないかという風に私は考えています。
以下,現時点で考えていることを備忘録としてまとめておきます。
メリット
「選択の後押しになる」という点で活用可能
私たちは選択肢が多すぎると選択できません。
また,婚活市場では,選択肢が多いほどより好みする可能性があることを指摘している研究もあります。(鈴木他,2018)。
近年は結婚の決め手が妊娠であることを伺わせるデータもあり(図表:佐藤,2019より引用),「結婚すること」の決定が互いの意思に基づくよりも,外部からもたらされる「決め手」に左右されやすくなっていることも考えられます。
したがって,AIによって「この人がいいですよ」という後押し=「決め手」が作られることによって,マッチングしやすくなったり,結婚しやすくなったりする可能性はあると思います。
類似性は好意を高める
類似性が好意を高めるという話は有名です(どのようなものでも似ていればいいというわけではありませんが;中村,1984)。
おそらく,類似した趣味とか類似した行動履歴とか「距離の近さ」をマッチの条件にしていると考えられるので,自分と何らかの点で似ている人が相手に選ばれやすくなり,その結果,その相手に好意をいだきやすくなるということは考えられると思います。
「0から1」に進むよりも「1から2」に進むほうが簡単ですので,「この人と会ってみたら?」というAIのおすすめにより,今までは選択の範囲に含まれていなかった相手でも会おうと思い(選択の後押し),その結果,似ていることに気づき,交際に発展していくという可能性はあるかなと思います。
デメリット
成婚に至らない理由は「マッチング」の問題なのか?
結婚支援に携わっていて感じたのは,成婚に至らない理由は「相性(マッチング)」の問題ではなく,もうちょっと即物的な問題であるということです。
具体的には,「結婚するとなると仕事を辞めなければいけない」とか,「親の介護をどうするか」とか,「結婚後に働く意志はあるか」とか,そういう婚活者個人同士の「相性」とは別次元の問題から交際がうまくいかないという例を見聞きしてきました。「話は合う(=相性は良い)けれど,職の問題が…」というような事例を担当していたこともあります。
たしかに相性は大事かもしれませんが,そもそも相性は(下記で書くように)事前に分かる/決まるものではないですし,相性の良さは成婚に至る大きな理由ではないように感じます(「妊娠したこと」が決め手になっているという上記のグラフからもそれが示唆されるかなと思います)。
少子化の原因は未婚・非婚ではない
子どもを生み育てるためにはお金がかかります。非嫡出子が少ない日本においては未婚化・晩婚化は確かに少子化の一因ではありますが,結婚したからといって子どもを生むわけではなく,経済的な余裕が必要であることは多くの研究で指摘されています。
なので,「AI婚活」は結婚を後押しすることにはなるかもしれませんが,「少子化対策」にはなりえないでしょう。
減点方式で人を見てしまう
AI婚活によって「自分に適した相手」が選別されると,「適していること」が基準値(デフォルト)になるので,「適していない」部分が目につくようになると考えられます。すなわち,本当はじょじょに「この人,なんだか居心地いいなあ」と相性が良いことに喜びを感じていくはずのものが,最初に「あなたとは相性が良いです」と提示されることで,相性が良い部分が当然になり,良くない部分にフォーカスがあたってしまうということです。
何も噂を聞かずに行ったら美味しく感じたラーメン屋さんが,事前に「あそこのラーメンは美味しい」という噂を聞いてしまったがために,「たしかに美味しかったけど,まあまあだったね」みたいな感想をもってしまうというイメージです。
私たちはある基準(ルール)がつくられると,それに縛られてしまいます。その基準を守ることが当然で,守れない方に目が行ってしまいます。AI婚活によって「適していること」が基準になると,「適していないこと」に目が行ってしまう,つまり,減点方式で人を見てしまう可能性が高まると思います。
以前,「診断名がつくこと:ラベルについて(1)」で「ラベル」がつくことの弊害について,
その人の「できなさ」に着目することになる
それによって,その人の「できる」可能性が奪われる
と考察しましたが,それと同様の問題が起きるように思います。
ちなみに,この点は,AI婚活に限らず,マーケティング系の婚活全般に通じる話だと考えています。
AI婚活ではカテゴリ(類似性)を超えられない──恋愛・結婚の意味/意義はカテゴリ(類似性)を超えることにある
結婚相手には階層的に似ている相手を選ぶこと(同類婚)が多いのは知られています(白波瀬,1999)。なので,多くの場合,結婚は階層を超えるものではないのですが,それでも恋愛や結婚には階層を超えるちからが潜在的に備わっています。玉の輿とか,異文化結婚とかがその一例です。
東浩紀の概念を用いるならば恋愛・結婚は「誤配」を伴うというわけです。そしてそれこそが恋愛・結婚におけるもっとも大事な点だと思います。本来であれば関わりあうことのないような相手と関わりあい,それだけでなく親密な関係を築く。こういう関係の作り方は恋愛・結婚以外だと現状あまり多くはないと思います。
しかし,AI婚活はこの「誤配」のちからを消し去ります。事前に予想された相手とお見合いを繰り返していくわけですから,つまり,そこには誤配の可能性が極めて少ないわけです。それは結局,似た者同士があつまり,階層を超えて交わることを消去していく方向への進展です。社会が分断化されます。
恋愛・結婚の意味/意義は「誤配」にある。この点は忘れてはならないことかと思います。
成果としての数値で気になること
ところで,AI婚活を支援する数値的根拠として「実際にビッグデータを活用した結婚支援を行っている愛媛県では、マッチング成立割合が13%から29%に向上した」というものがありました。(実際はマッチングではなく,お引き合わせでした。)
※ マッチングというと交際開始ないしはデート開始という印象を受けます。お引き合わせとは「お見合い相手に会うことを決める」という段階で,交際よりもかなり前段階(デートをするかどうかを決めるよりも前の段階)です。
単純に数値だけ見ればビックデータの活用前後で向上したのかもしれませんが,どれくらいの人が「ビックデータの活用によって」”マッチング”が成立したのかを知りたいなあと思います。
「ビックデータ」ということに飛びつき利用者が増えた結果,成立割合が増えただけで,(ビックデータによるマッチング成立/ビックデータの利用者数)という割合が小さければ,「ビックデータの成果」とは言えないと思います。
また,長期的な成果も調べてほしいなと思います。離婚理由の上位は「性格の不一致」です。ビックデータを活用した人たちとそうではない人たちで,マッチング成立後いつまで関係が継続しているのか,どのような関係を築いているのか,関係が崩壊しているとしたらどのような理由なのか(性格の不一致はビックデータの活用で当然低くなりそうなものです),そのような長期的な成果も調べてはじめてビックデータの活用の是非を議論できるように思います。
「結婚支援ビッグデータ活用研究会」がありますので,成果公表を期待しています。(私も入りたい….)