蝶の裂け目
(2015/05 例大祭12発行、表紙 ひそなさん(スアリテスミ))
まず『夜の歌』という短編集を作ろうというのが先にあり、そこから逆算して道筋を考えた結果、それを三部作の最後にしようということになりました。『夜の歌』というのは題が漠然としすぎていていきなり出すものではないというのがその理由の一つです。
三部作というのは高橋源一郎の60年代三部作が念頭にあり、メタフィクションの部分では繋がっているけれど別に話が繋がっているわけではないということです。最終的にはディティールにおいて幾つかの細い橋を渡しはしましたが。
それまで創想話や合同誌に単発で出していて、ここから際限なく構造に凝るということが始まりました。つまり、短編集という形式にわざわざする、お金を出してもらうものを刷るのであれば、それは単なる話の集積でなく、その総体として別のもっと大きな何かを言いうるものにしなければならないと考えたということです。
ここでは好きなものの骨組みに自分の別のものを肉詰めしていくというやり方を試したくて、というかそこからすべてを始めたくて、Pink Floydの『炎』というアルバムがあるのですが、その構造を下敷きにしています。それはつまり5本詰めで1つ目と5つ目はパート分けされた繋がった話で、4つ目が表題作であるということです。
左右対称構造に見えて実はそうではないというのが全体を貫くモチーフで、それはタイトルにも現れていますし、大小明暗各所に出てきます。それはたぶんもちろんコミュニケーションについての話でもあります。
1.「神様がいなくても(Parts I-V)」
内と外というところで後半とのパート分けがされています。誰も見てくれなくなるというところからすべての話を始めているわけでとにかく暗い。
2.「君が気にするから」
増殖のモチーフはこの後飽きずに延々と繰り返していますがその最初です。ポップスをやろうとしている節があります。英題をAphex Twinから取っていて、そのCome To DaddyのMVから情景を引っ張ってきています。小説でしか書けないことを書こうとしていて、つまり顔が同じだという表現は他の媒体ではうまく言い切れないと思います。
3.「夢の溶液」
対称の核で、ごろっとしています。この頃まだドレミーが出ていなかったです。紺珠伝体験版はこの夏です。書き出しはRadioheadのLet Downの「Disappointed People, Clinging On To Bottles」のラインです。
4.「蝶の裂け目」
映像的な話です。2つ目との対称はこちらで外から中を示唆していることとあちらで中から外に言及していることで、非対称はこちらではカウンターパートとの両方が登場しますがあちらでは片方しか出てこないということです。また、それとは別に秘封のクリシェのなぞり方で何かを言おうとしている節があります。
5.「神様がいなくても(Parts VI-IX)」
内外の外の話です。祭りで本全体の登場人物を回収していて、それは『夜の歌』の最後と回収の形態において対称をなしています。